直務

直務（じきむ）の概念と歴史的背景

直務とは、荘園領主が自ら荘務権を行使し、荘園を直接支配することを指します。この制度は、日本の中世における荘園の管理に重要な位置を占めています。特に鎌倉時代以降、荘園領主は荘官や地頭、土倉などの管理者に現地の運営を委託し、年貢を一定額納入させる体制が取られるようになりました。このような管理方式は、領主が直接手を下さずに済む一方で、現地の事情に疎くなる可能性を孕んでいました。

荘官・地頭・請負代官の役割

荘園の管理を請け負った者は「請負代官」と呼ばれ、その職務は役割に応じて異なります。荘官が担当した場合は「代官請」、地頭が担当した場合は「地頭請」と称され、守護が関与する場合には「守護請」となります。しかし、次第に年貢の未進や下地中分、半済が進行するによって荘園の収入が減少し、管理者は農民からの過剰な取立てを行う事態が増加しました。このような背景から、農民たちの間では請負代官への不信感が高まり、請負代官が排斥される事例も見られました。

荘園領主の直接支配

このような混乱の中で荘園領主は、現地を直接支配するために自らの直臣から任命した代官、すなわち「直務代官」を派遣することが求められるようになりました。この制度により、領主は農民との信頼関係を再構築し、荘園の管理を強化することが可能となります。農民の側からも直務代官の派遣を求める声が上がり、結果として荘園領主が荘官や地頭を交代させたり、新たな所務代官を募集したりする例が増加しました。

室町幕府の政策も影響を与えており、特に守護と地頭のつながりを断ち切るための不知行地還付政策が制定されました。この政策により、所領を回復した寺社も直務代官を派遣する場合があったのです。

著名な事例

直務の具体的な例としては、文亀元年（1501年）に前関白の九条政基が、自らの荘園である和泉国日根荘において守護細川氏の押領に対抗するために直接下向した事例が知られています。また、1461年には美作国新見荘の請負代官であった細川氏の家臣、安富智安が現地農民によって排除された際、領主である東寺が新たに直務代官を派遣するよう求められ、それが実現したという事例もあります。

これらの歴史的な背景から、直務は中世日本の荘園制度における重要な要素であったことがわかります。農民との関係を重視した直接支配の制度は、当時の社会構造や農業経済に影響を及ぼしました。

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