相互館110タワー

相互館110タワーは、東京都中央区京橋三丁目に位置するテナントビルで、第一生命保険によって所有されています。この建物は、同社が創業110周年を迎えたことを記念して2012年に竣工しました。初代の「第一相互館」（1921年竣工）、2代目の「第一生命相互館」（1971年竣工）に続く3代目として、その歴史と革新性を引き継いでいます。建物名の「110」は、第一生命保険の110周年を記念したものであり、建物の階数や高さを示すものではありません。

デザインとコンセプト

3代目となる建物は、2010年7月に着工し、清水建設が施工を担当しました。「新旧ハイブリッド」をコンセプトに、初代の第一相互館を設計した辰野金吾のデザインをモチーフとした尖塔が特徴です。また、関東大震災でも倒壊しなかった初代の耐震性能を受け継ぎ、現代の技術と融合させています。建物名称は2011年に「相互館110タワー」と決定し、第一生命保険の110周年と、次の110年への想いが込められています。

入居テナントと立地

テナントには、イトーキ東京イノベーションセンター、マイナビ京橋オフィス、東洋インキSCホールディングス、結婚式場のアンジェリオンオプラザ TOKYOなどが入居しています。中央通りと鍛冶橋通りの交差点に位置し、周辺には第一生命が出資する京橋創生館や京橋第一生命ビルが建ち並びます。この地域における重要なランドマークとしての役割を担っています。

初代：第一相互館

建設の背景

第一生命保険は、1902年に日本初の相互会社として設立されました。中央通りと鍛冶橋通りの交差点の南側の土地に、第一相互館の建設が具体化したのは1911年のことです。当時、この場所は南伝馬町3丁目と呼ばれ、商家や民家が立ち並ぶ一角でした。第一生命創業者の矢野恒太は、日本銀行本店や東京駅を設計した辰野金吾に相談し、1914年に設計図が完成しました。地上7階建てで、5・6階に第一生命の事務所、2～4階は貸事務所、1階は貸店舗として利用される計画でした。

建設の難航

1915年 5月25日に起工式が行われ、鉄骨工事は高田商会、その他の工事は清水組（現清水建設）が担当しました。当初は1918年1月の完成を目指していましたが、第一次世界大戦による建築材料不足のため工期は大幅に遅れました。当時、国内で鉄骨を調達することができなかったため、イギリスのドルマン・ロング社に発注しましたが、鉄骨を積んだ八阪丸がドイツの潜水艦の攻撃を受け、地中海に沈没するというトラブルも発生しました。1917年に鉄骨が組みあがり、工事は清水組に移りましたが、資材の高騰と人手不足は続き、請負方式を清算し、清水組の協力のもと直営工事に切り替えられました。

完成と特徴

1919年には、本館の完成を見ることなく辰野金吾がスペイン風邪で急逝しました。総工費200万円、着工から6年近い歳月を経て、1921年 3月31日に新築披露式典が行われました。外観は、辰野の意匠により、地上3階窓台まで常陸産御影石積み、6階軒蛇腹まで化粧煉瓦張り、7階以上は人造石塗りの仕上げとされました。高さは7階の小壁まで約31.2m、塔屋頂部まで約45.4mで、当時この付近で最も高い建物でした。館内には、1階から7階までスウェーデンから輸入したステンドグラスを使用した吹き抜けが設けられ、回転ドアやコンクリート製の防火戸など、当時としては斬新な設備が導入されました。

開業とテナント

第一生命の本社が日本橋から移転したのは、同年4月11日でした。1階には、東京菓子製造（のちの明治製菓）のコーヒースナック、山一證券、洋書店の日独商会、理髪店、カメラ店、テーラー、鰹節の板倉屋などが入居しました。店舗は夜間も営業することが条件とされており、従業員用に中二階が設けられました。7階には西欧風レストラン「東洋軒」、中二階には料亭「竹葉亭」が開店し、寺田寅彦など多くの常連客を集めました。

関東大震災とその後

1923年 9月1日に発生した関東大震災では、第一相互館は倒壊を免れました。1階ホールには付近の住民が避難しましたが、持ち込まれた荷物に引火し、火災が発生しました。皇太子（のちの昭和天皇）が被害状況の視察のため本館の塔屋に立ったことから、塔屋のドームは「お立ち台」と呼ばれるようになりました。帝都復興院は本館を残存建物に指定し、3年がかりで修復が行われました。昭和に入ると、業容の拡大により事務所が手狭になり、1938年に第一生命館が完成すると、第一相互館の空室には大日本麦酒が入居しました。東京大空襲では軽微な被害で済んだものの、第一生命館はGHQに接収されたため、第一生命は再び第一相互館に本社を置きました。

解体

1961年の強度診断では「この先50年は大丈夫」との結果でしたが、設備の老朽化と建築基準法改正により高層建築が可能になったことから、建替えが決定されました。明治村への移転や保存を求める声もありましたが、1969年5月13日に解体式が行われました。

2代目：第一生命相互館

2代目となる第一生命相互館は、1971年に竣工しました。横連窓の外観と四角形の塔屋を持つ地上14階、地下3階の建物でした。1階には小田急の旅行案内所と眼科医院、1階から2階にかけて三井銀行と十八銀行、3階に北辰化学工業、4階から9階にかけて第一生命東京中央支社、10階から14階にかけては朝日麦酒が入居していました。賃貸オフィスビルとして機能しましたが、2009年に解体されました。

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