相倉久人

相倉久人（あいくら ひさと）は、1931年12月8日に東京府で生まれ、2015年7月8日に83歳で亡くなった音楽評論家、ジャズ司会者です。彼の評論は、単なる音楽の技術的な側面だけでなく、演奏者と聴衆の関係性、そしてその音楽が生まれた時代の社会的背景に焦点を当てる独特なものでした。

相倉は東京大学在学中からジャズ喫茶に入り浸り、ジャズ評論を始めました。『ミュージック・ライフ』誌でデビュー後、『スイングジャーナル』誌を中心に執筆活動を展開し、ジョン・コルトレーンに関する評論やジャズ革命論で人気を博しました。しかし、1960年代には執筆姿勢を巡る対立から同誌と決別しています。

1963年頃からは、「銀巴里」や「新宿ピット・イン」などのジャズスポットで司会を務め、若手ミュージシャンの育成にも尽力しました。特に山下洋輔との交流は深く、山下を筒井康隆に引き合わせるなど、その後の活動に大きな影響を与えました。また、赤塚不二夫を山下洋輔一派に巻き込むきっかけを作ったのも相倉でした。

相倉は1970年に「ジャズ」が死んだと判断し、ジャズ評論から一時的に退きました。その後、松田政男、佐々木守らと「批評戦線」を結成し、雑誌『第二次・映画批評』を創刊。1972年にはディープパープルの来日公演に触発されロック評論を始めました。EastWestの審査委員長を務めたり、大滝詠一の分母分子論の聴き手になったりするなど、多岐にわたる活動を展開しました。晩年にはジャズ評論を再開し、日本ジャーナリスト専門学校で講師を務め、2009年には山下洋輔トリオの再結成ライブで司会を務めました。

著書も多数あり、『モダン・ジャズ鑑賞』、『現代ジャズの視点』、『ジャズからの出発』など、ジャズに関する深い知識と洞察に基づいた著作を多数発表しました。また、『日本ロック学入門』など、ロックに関する評論も手掛け、幅広い音楽ジャンルに精通していたことがわかります。また、チャールズ・カイル著『都市の黒人ブルース』やバリー・マクレー著『現代ジャズの奔流』など、海外の音楽理論書や評論の翻訳も行っています。音楽監修として映画製作にも携わるなど、音楽評論家としての枠を超え、多方面でその才能を発揮しました。

相倉は、そのユニークな視点と社会的な考察を交えた評論で、日本の音楽シーンに大きな影響を与えました。彼の評論は、単なる音楽の評価にとどまらず、社会や文化との関わりを深く掘り下げ、読者に新たな視点を提供しました。また、多くのミュージシャンやクリエイターに影響を与え、その活動は今日においてもなお評価され続けています。

相倉の多岐にわたる活動は、音楽評論の世界にとどまらず、日本の文化全体に大きな足跡を残しました。彼の視点や思想は、後世に受け継がれ、これからも多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

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