相馬半治

相馬半治：明治製糖・明治製菓の礎を築いた生涯

相馬半治(1869-1946)は、明治製糖と明治製菓の創設者の一人として知られる実業家です。代々犬山藩士の家系に生まれた彼は、明治維新後の経済的困窮を経験しながらも、教師、軍人、そして化学者としての道を歩み、独自の経験と知識を培いました。その経歴は、日本の近代化を象徴する波乱に満ちたものでした。

困難な生い立ちと教育

相馬半治は、尾張国丹羽郡犬山町で田中半治として生まれました。父は明治維新後、士族の商法に失敗し、一家は貧困に苦しみます。幼少期は名古屋市内で転々と生活し、5歳で母を亡くすなど、恵まれない環境の中で育ちました。それでも彼は、家業を助けながら小学校に通学し、その後は教師として働き始めます。僅かな月給ながらも、勉学に励み、教員資格を取得。その後、さらに収入を増やすべく、年齢を偽って陸軍教導団に入団し、厳しい訓練の中で精神力と体力を鍛えました。

陸軍除隊後、彼は東京工業学校（現・東京工業大学）応用化学科に入学。手島精一教授らに師事し、化学の知識を深めます。しかし日清戦争による応召で学業は中断。復学後、卒業と同時に東京工業学校の助教授、工場長に就任します。

海外留学と糖業への進出

1899年、文部省の派遣により、3年間の海外留学へ。東南アジア、ヨーロッパ、アメリカを巡り、石油と糖業を研究しました。特にドイツとアメリカでは、製糖技術を深く学び、ミシガン大学では理学修士号を取得。帰国後は、東京高等工業学校教授に就任すると同時に、大蔵省の依頼で内地糖業の調査、台湾総督府の嘱託として台湾の製糖業視察も務めました。

日本の砂糖消費量の増加と、台湾における製糖業の非効率性を認識した相馬は、大規模な製糖会社設立を構想。同郷の小川䤡吉と共に、渋沢栄一を相談役、小川を社長、自身を専務として1906年、明治製糖を設立します。台湾に製糖工場を建設し、近代的な製糖技術を導入。数々の困難を乗り越え、明治製糖は成長を遂げました。

明治製菓設立と多角化経営

明治製糖社長に就任した相馬は、経営多角化を推進。1916年、大正製菓株式会社を設立し、東京菓子株式会社と合併。明治製菓へと発展させました。第一次世界大戦下の砂糖需要の高まりを捉え、菓子製造事業への進出は成功を収め、森永製菓と並ぶ大手菓子メーカーへと成長しました。さらに、ゴム栽培事業や商社部門である明治商店を設立するなど、明治製糖グループは「大明治」と呼ばれるほどの大企業へと発展しました。

明糖事件と晩年

1932年、明治製糖は脱税疑惑（明糖事件）に巻き込まれます。相馬は拘留されるも、大蔵省の黙認事項であったことなどから、比較的軽い処分となりました。しかし、この事件は政党政治への国民の不信感と新聞報道によって大きく取り上げられ、相馬は一時社長を辞任。事件への責任を感じ、深く苦悩しました。

その後、明治製糖社長に復帰した相馬は、明治製糖研究所の設立やミシガン大学への寄付などにも尽力します。1942年に明治製菓会長を退任後も相談役として企業の発展に貢献しましたが、1946年、脾臓癌のため死去しました。

相馬半治の人物像

相馬半治は、強い意志と勤勉さで知られる人物でした。徹底した合理主義者であり、常に効率性と利益を追求しました。しかし、一方で、部下を厳しく指導する一方で、その成長を願う温かさも持ち合わせていました。また、上流社会との交流を好み、皇族との親交も深めていました。彼の生涯は、困難を克服し、日本の近代化に貢献した、稀有な実業家の物語です。その成功と失敗、そして人となりを知ることで、日本の近代経済史の一端を垣間見ることができます。

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