相馬盆唄

相馬盆唄

相馬盆唄（そうまぼんうた）は、福島県相馬地方に古くから伝わる代表的な民謡です。盆踊りの際に歌い踊られ、地域によっては「相馬盆踊唄」とも称されます。この歌は、長い歴史の中で相馬の風土と人々の暮らしと共に育まれてきました。

その起源は、遠く離れた東北地方の「秋田甚句」にあると考えられています。時間をかけて山形県の庄内地方や村山地方を経て、次第に東へと広がり、福島県の中通り地方、そして相馬地方を含む浜通り地方へと伝播しました。各地の文化を取り入れながら変化し、現在の相馬盆唄へと発展しました。

現在、広く親しまれている相馬盆唄の多くは、昭和初期の作曲家、鈴木正夫（すずきまさお）による編曲版です。鈴木は1937年（昭和12年）7月、「相馬盆踊」のタイトルでビクターレコードから発売しました（歌手名義は鈴木秀桃）。当初は人気曲「会津磐梯山」のB面でしたが、その親しみやすい旋律とリズムは、B面ながらA面を上回る人気を博しました。戦後、「相馬盆唄」として改めてA面曲として発売されると、1960年（昭和35年）までに19万枚を売り上げるヒットとなり、「豊年まつり」のタイトルで再録音されたものも同時期までに8万5千枚を売り上げるなど、長期間のロングヒットを記録しました。鈴木正夫による編曲は、相馬盆唄を全国に知られる民謡へと押し上げました。

相馬盆唄の歌詞は、主に土地の豊かな実りを祝い、来るべき年の豊作を願う内容です。これは、農業を基盤とする地域社会において、収穫への感謝と未来への希望を歌に託すという民謡の役割を反映しています。歌詞は七五調をベースとした7・7・7・5音の音数律が繰り返され、各フレーズの間に「ヤレサ」という独特の囃し詞（はやしことば）が挿入されます。この「ヤレサ」は、歌い手と踊り手、聞き手全体に一体感を生み出し、盆踊りの活気や高揚感を盛り上げます。このような7・7・7・5音に囃し詞が加わる形式は、関東地方の民謡、例えば栃木県の日光和楽踊りや埼玉県秩父市の秩父音頭などにも共通して見られ、民謡の伝播や地域間での影響を示す興味深い事例です。

相馬盆唄は、覚えやすいメロディーと踊りやすいリズムから、地元相馬地方を超えて全国各地の盆踊りで踊られる機会があります。特に、その地域独自の盆踊り唄がない地域では、東京音頭や北海道の北海盆唄などと並んで、広く親しまれる定番曲の一つです。宮城県においても、かつて相馬盆唄が盆踊り歌として盛んに踊られていました。これは、1954年（昭和29年）頃に、宮城県独自の「宮城野盆唄」が創作されるまでのことであり、相馬盆唄がいかに周辺地域にも広がり、受け入れられていたかを示す例です。

相馬盆唄は、古くから伝わる民謡のルーツを持ちながら、鈴木正夫による洗練された編曲を経て、全国的な知名度を獲得しました。豊作を願う人々の願いと、盆踊りの賑わいを今に伝えるこの歌は、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。福島県相馬地方の文化遺産としてだけでなく、日本の民謡文化においても重要な位置を占める楽曲です。

もう一度検索