省エネルック

省エネルックとは、1970年代後半のエネルギー危機を背景に生まれた、日本の男性向け服装提案の一つです。現代において広く浸透しているクール・ビズ運動の先駆けとも位置づけられる取り組みでした。

誕生の背景

このスタイルが提唱されたのは1979年、世界が第二次オイルショックに見舞われ、エネルギー節約が喫緊の課題となった時期です。当時の第一次大平内閣は、この危機に対応するため、国民生活におけるエネルギー消費を抑えるための様々な施策を打ち出しました。省エネルックもその一環として、冷房の使用を抑えることを目的とした、夏場の涼しい服装として提案されました。

スタイルの特徴と普及への試み

省エネルックの主な特徴は、半袖の開襟ワイシャツや、袖丈が短い背広（スーツ）です。これは、東南アジアなどの熱帯地域で見られる服装を参考に考案されたとされています。時の首相であった大平正芳氏や、後に首相を務めることになる羽田孜氏といった政治家が率先してこのスタイルを着用し、国民への普及を促そうとしました。しかし、期待されたほどには一般社会に浸透せず、広く定着するには至りませんでした。

羽田孜氏と「ニューサマースーツ」

省エネルックの熱心な推進者として知られるのが羽田孜氏です。彼はこのスタイルを「ニューサマースーツ」と名付け、特に愛用しました。羽田氏が着用を始めたきっかけは、地元の洋品店主から贈られた一着のスーツでした。しかし、そのスーツがかなり傷んでいたため、新たなスーツを仕立てることになりました。この新しいスーツを手がけたのは、アパレルメーカーの株式会社カインドウェアです。同社の渡辺喜雄会長によると、デザインにあたってはアメリカ海軍の半袖制服や、インド、東南アジアの伝統的な服装を参考にしたといいます。素材には主にウールが使われましたが、麻や綿も一部ブレンドされ、通気性を高める工夫が凝らされました。裏地はメッシュ素材が採用され、生地の端がほつれないようにパイピング処理が施されるなど、機能性と見た目の両立を目指した設計がなされていました。

羽田氏は首相在任中の1994年を含む様々な公の場でこのニューサマースーツを着用し、その姿がメディアで報じられたことで一時的に話題となりました。しかし、その影響力は限定的であり、後年のクール・ビズのように国民的な運動となるには至りませんでした。

定着しなかった要因と後世への影響

省エネルックが広く受け入れられなかった最大の理由としては、涼しさを追求するあまり、ビジネスシーンにおける見た目のフォーマルさや周囲からの視線に対する配慮が不足していた点が挙げられることが多いです。当時の社会通念やビジネス慣習において、半袖のスーツは非常に斬新であり、受け入れられにくい側面があったと考えられます。

しかし、この省エネルックの試みは、完全に無駄になったわけではありません。2005年に当時の小池百合子環境大臣主導で始まったクール・ビズ運動は、この省エネルックの経験を参考にしています。小池氏自身も、羽田氏のアイデアがクール・ビズの発想につながったと後に語っています。省エネルックは、現代の快適かつ省エネなビジネススタイルを模索する上での貴重な先例となったと言えるでしょう。

羽田孜氏の息子である羽田雄一郎氏（故人、参議院議員）や、その弟である羽田次郎氏（参議院議員）も、父のスタイルを受け継ぐかのように省エネルックに近い服装を着用する姿が報じられています。また、過去には民主党所属の参議院議員であった若林秀樹氏も愛用していましたが、クール・ビズの普及に伴い着用しなくなったとされています。

省エネルックが登場する作品・関連用語

省エネルックは、社会現象としては定着しなかったものの、一部の文化作品にも登場しています。例えば、星里もちる氏の漫画『りびんぐゲーム』では、主人公が半袖の背広を着用する姿が描かれています。

関連する用語としては、夏場の軽装化を推奨する「クール・ビズ」や、冬場の暖房使用を控えるための服装推奨運動である「ウォーム・ビズ」があります。これらの運動は、省エネルックが目指した目標や理念を受け継ぎつつ、現代のビジネス環境やファッション感覚に合わせた形で展開されています。

また、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の楽曲「労働讃歌」のミュージックビデオにおいても、省エネルックを思わせる服装が取り入れられています。

省エネルックは、エネルギー問題への対応という時代の要請から生まれ、政治家による推進にもかかわらず広く普及しなかった歴史を持つ服装スタイルですが、その試みは後のクール・ビズへと繋がり、日本のビジネスファッションにおける省エネ意識の芽生えとして、その意義を今日に伝えています。

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