看板建築

看板建築

看板建築（かんばんけんちく）は、関東大震災後の日本における独特な商店併用住宅であり、主に鉄筋コンクリート造の資金力が乏しい中小規模の商店によって建設されました。この建築様式は、かつての伝統的な町屋に代わり、洋風の外観を持つ都市型住居として発展しました。

概要

看板建築の特徴として、通常は木造で作られた建物の前面に看板としての役割も持つ外壁が設置されており、この壁面はキャンバスのように自由に造形され、商店の顔としての役割を果たしました。この建築スタイルの名称は後の研究者によって与えられたもので、震災後の大正末期には「街路建築」と呼ばれていました。

歴史

看板建築が登場する前の東京では、町屋という商店併用の住宅形式が一般的でした。この町屋は、切妻屋根の平入2階建てを基本とし、出桁造や塗屋造、蔵造といった様式がありました。しかし、1923年の関東大震災によって、これらの伝統形式は大きな打撃を受け、ほとんどが焼失しました。特に防火のために土で包まれた蔵造や塗屋造は、地震の衝撃により期待されていた防火性能を果たすことができませんでした。

震災後の焼け野原にはバラック商店が立ち並ぶようになり、その後の復興計画に伴い、1928年から土地区画整理事業が始まりました。この結果、初めて本格的な店舗が建設され、鉄筋コンクリートのアール・デコ調の商店に囲まれる形で看板建築が立ち並ぶようになりました。

大工と看板建築の拡大

東京の大工たちは震災によって道具や材料を失い、看板建築の建設は主に地方から来た大工によって行われました。その後、彼らが地方に帰ると、看板建築のスタイルは富山から仙台にかけて広がることとなりました。東京下町の風景を構成する看板建築は、バブル時代の地上げの影響をうけてその数が減少し、現在では点在するだけの状態となっています。

構造と間取り

看板建築の前面は、垂直な壁面を持つのが特徴で、これには市街地建築物法の影響が見受けられます。この法律では、建物の外壁を不燃性の材質で覆うことが求められ、特に注意が払われたのが高価な銅板による仕上げでした。建物内部の間取りは江戸以来の商店の形式を踏襲し、1階の表側を店舗、裏側を住居として使うスタイルが一般的でした。2階には和室があり、通風や採光は前面や後面の窓から確保されていました。

デザインと表現

看板建築のデザインは独特で、伝統的な日本の建築スタイルとは一線を画し、欧米の影響を受けた特徴があります。建築のデザインは、職人によるものだけでなく、時には日曜画家や施主によっても行われました。自由なデザインと見せかけの西洋建築風が両立したこの建築様式は、商店街に新しい風を吹き込みました。

看板建築の特徴的なデザイン要素には、地域の文化を反映させた江戸小紋の模様があり、これは日用品と共に使用されてきました。このように、看板建築は地域の文化的な記憶を反映した建築としての歴史を持っています。

現在の状況

看板建築は、現在でもいくつかの場所で見ることができますが、その数は減少し続けています。江戸東京たてもの園では、これらの貴重な建築を保存するための取り組みが行われています。また、観光地としての側面も強化され、レトロな商店街の整備が進められているところもあります。国際的な視点からも、看板建築は危機遺産に指定され、その保存が求められています。

今なお日本の街並みに独特な風景を与える看板建築は、震災を経て生まれ変わった日本の建築文化の一翼を担っているのです。

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