県の石

「県の石」とは、日本地質学会が選定し、2016年（平成28年）5月10日に公式発表した、日本の各都道府県を象徴する特定の岩石、鉱物、あるいは化石の総称です。この取り組みは、地域の地質資源への関心を深め、身近な自然や大地の成り立ちについて学ぶ機会を提供することを目的としています。

この「県の石」を選定する動きは、日本地質学会が創立125周年を迎える記念事業の一環として始まりました。都道府県には既に公式に定められた鳥や木、花といったシンボルがありますが、大地を構成する重要な要素である「石」に相当する象徴がないことに気づいたのが、選定の大きな契機となりました。同学会は2014年（平成26年）8月からウェブサイトなどを通じて広く一般市民から「県の石」にふさわしい石の候補を募集しました。

一般公募で寄せられた多くの提案を基に、各都道府県で産出する特徴的な石の中から、岩石、鉱物、化石の3部門に分けて専門家による厳正な審査が行われました。選定プロセスにおいては、学術的な重要性や希少性はもちろんのこと、その石がどれだけ地域の人々に親しまれており、文化的な側面や歴史的なつながりがあるかなど、都道府県民にとって受け入れやすいかどうかが重要な判断基準となりました。

最終的に選ばれた「県の石」は、地質の日である2016年（平成28年）5月10日に公表されました。各都道府県から岩石、鉱物、化石がそれぞれ一つずつ選定されたため、合計で141種類もの「県の石」が誕生しました。これにより、日本列島の多様な地質環境を反映した個性豊かな石が、それぞれの地域のシンボルとして位置づけられることとなりました。

日本地質学会は、「県の石」の認定およびその後の普及啓発活動を通じて、地球科学や地質学に対する一般市民の興味・関心を高めることを目指しています。身近な場所に存在する石を通じて、太古からの地球の営みや、自然環境がどのようにして現在の姿になったのかについて、多くの人々が理解を深めるきっかけとなることが期待されています。

また、特定の都道府県では、学会による選定とは別に、独自の取り組みが行われている例もあります。例えば新潟県では、「翡翠を新潟県の石にする会」からの強い請願活動を受け、42,000筆を超える署名が集まるなど、県民の熱意に応える形で、2022年（令和4年）11月4日に県として公式に翡翠（ヒスイ）を「県の石」として定めました。これは、県のシンボルとしての石に対する地域住民の関心の高まりを示す事例と言えるでしょう。

「県の石」と関連して、日本を代表する石として「日本の石」（国石）も選定されています。これは日本鉱物科学会が同学会の一般社団法人化記念事業として行ったもので、2016年（平成28年）9月24日の総会で翡翠が日本の石に選ばれました。この選定も一般公募を経て、最終候補の中から会員投票によって決定されました。奇しくも新潟県の石としても公式に認められている翡翠が、「日本の石」としても選ばれたことは、その美しさや学術的な価値、そして日本の文化との関わりの深さを示すものと言えるでしょう。

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