真心

真心（まごころ）とは

真心とは、偽りや飾り、迷いや疑いなどがない、純粋で誠実な心や気持ちを指します。至誠や誠意といった言葉と同じように使われ、「真心を込める」「真心を尽くす」といった表現で、その大切さが伝えられます。

本居宣長における「真心」

江戸時代の国学者、本居宣長は、独自の思想の中で「真心」という言葉を用いました。しかし、その意味合いは現代の一般的な用法とは異なります。

宣長は、何かに触れたときに感じる「うれしかなし」という感情こそが、人間の心の根源的な性質、すなわち「真心」であると考えました。そして、理屈や理論ではなく、生まれながらに備わっている「真心」に身を任せることで、物事の本質や真実（「道」）を捉えることができると主張しました。

また、宣長は、日本人が「善悪是非」や「物の理」といった概念（「漢意（からごころ）」）を、漢籍などを通して身につけたことで、「真心」や「大和魂」を失ってしまったと嘆きました。彼は、この状況を憂い、漢意を批判し、排除すべきだと説きました。

宣長の言う「真心」には、美しい服を着たい、良い家に住みたい、宝が欲しいといった私的な欲望も含まれます。宣長は、これらを「女々しい」と表現し、欲望を統制しようとする儒教的な男性精神を批判しました。同時に、儒教的な精神が人の心を歪めてしまうため、儒教が盛んな国では国を平和に治めることができないと主張しました。

宣長は、優れた歌や物語は「もののあはれ」を知ることで生まれると同時に、そのような作品は人々の「真心」に訴えかけ、心を鍛えていくと考えました。そのため、「漢意」に基づいた漢籍ではなく、『古事記』、『日本書紀』、『源氏物語』、『万葉集』などの日本の古典を学ぶことで、「真心」を再び形成できると主張しました。

「至誠」と「真心」

漢文における「至誠」という言葉は、日本語で「真心」と訳されることがあります。例えば、孟子の「至誠而不動者、未之有也（真心をもって接すれば、どんな人でも感動させないことはない）」、王陽明の「至誠惻怛（真心（至誠）と痛み悲しむ心（惻怛）こそ、人としての基本姿勢である）」などがその例です。これらの言葉は、真心が人を動かし、人を思いやる心の大切さを表しています。

その他の関連事項

まごころ（曖昧さ回避）: 複数の意味を持つ言葉であるため、曖昧さを解消する必要がある場合に用いられます。
教育勅語: 明治時代に発布された教育に関する勅語で、道徳教育の基本として「忠孝」や「仁愛」などが説かれています。真心とは異なる概念ですが、道徳的な価値観を伝えるという点で共通する部分があります。
誠意: 真心と同様に、嘘偽りのない心や態度を表す言葉です。誠意は、行動や態度を通して示されることが多いです。
日本の儒教: 中国から伝わった儒教は、日本においても道徳観や社会規範として影響を与えました。本居宣長は、この儒教的な考え方を批判し、日本古来の感性を重視しました。
本居宣長: 江戸時代の国学者で、古事記などの古典研究を通して、日本古来の文化や精神を復興しようとしました。彼の思想において、「真心」は重要な概念の一つです。
大和魂: 日本人特有の精神性や気質を表す言葉です。本居宣長は、「真心」と「大和魂」を結びつけて考えました。


このように、「真心」は、単なる感情ではなく、人間の根源的な性質であり、人が生きていく上で大切にすべき価値観であると言えるでしょう。それは、自己の感情に素直に向き合い、物事の本質を捉えようとする姿勢につながります。

脚注

コトバンク『真心』

外部リンク

『真心』 - コトバンク

もう一度検索