真空ダイヤグラム

スティーヴン・バクスターによるSF短編集『真空ダイヤグラム』（Vacuum Diagrams）は、彼の代表的なシリーズである『ジーリー・クロニクル』における重要な作品群を収録しています。

『ジーリー・クロニクル』における位置づけ

本書は、シリーズの各長編小説の間を繋ぐ役割を担い、銀河規模の存在であるジーリーと人類の最後の歴史までを描き出します。個々の短編は独立した物語ですが、これらをまとめて読むことで、『ジーリー・クロニクル』の壮大な宇宙叙事詩における、人類の進化、宇宙に進出した様々な異種族との関わり、そして宇宙自体の根源に関わる出来事への理解が深まります。

特徴的な構成

本書の大きな特徴として、各短編の間に「イヴ」と名乗る謎めいた女性の視点から描かれる短い「幕間」が挿入される構成が挙げられます。物語は「プロローグ：イヴ」で始まり、各時代区分や短編の間で「イヴ」の視点が挟まります。これらの幕間は、時に次の物語への導入となったり、作品全体を俯瞰するような役割を果たしたりします。そして、巻末の「エピローグ：イヴ」で、再び彼女自身の物語へと戻るという、独自の形式をとっています。

受賞と評価

『真空ダイヤグラム』は、1999年に優れたSF作品に贈られるフィリップ・K・ディック賞を受賞しており、その文学的・SF的な価値が高く評価されています。

表題作「真空ダイヤグラム」

短編集の表題ともなっている「真空ダイヤグラム」は、本書に収録された15番目の短編です。この作品は1990年にSF雑誌「Interzone」で初めて発表されました。タイトルの「真空ダイヤグラム」は、宇宙の物理法則、特に不確定性原理の特異な側面や、その揺らぎと回帰を示唆する概念を指しています。物語は、遥か未来の西暦21124年を舞台に、銀河規模の建造者であるジーリーが作り上げた巨大な構造物を舞台に、人類がテラフォーミングを試みますが、結局は失敗に終わるという顛末を描いています。

収録作品

本書には、様々な時代に発表された以下の作品群が収められています。これらは『ジーリー・クロニクル』のタイムラインに沿って、人類の発展と衰退、異星種族との遭遇、そして宇宙の深奥に関わる事象を描いています。

プロローグ：イヴ
人類、拡張の時代
太陽人
論理プール
グース・サマー
黄金の繊毛
リゼール
スクウィームによる人類支配の時代
パイロット
ジーリー・フラワー
時間も距離も
スイッチ
クワックスによる人類支配の時代
青方偏移
クァグマ・データ
プランク・ゼロ
人類、同化の時代
ゲーデルのヒマワリ
真空ダイヤグラム
人類対ジーリー、最終闘争の時代
密航者
天の圧制
ヒーロー
ジーリー、他宇宙への飛翔
秘史
フォティーノ・バードの最終勝利
〈殻〉
八番目の部屋
バリオンの支配者たち
エピローグ：イヴ

巻末の資料

短編集の最後には、『ジーリー・クロニクル』シリーズ全体の詳細な年表が付録として提供されています。この年表には、本書を含む1997年までに発表されたすべての短編小説と長編小説が網羅されており、それぞれの物語における重要な出来事が記録されています。これは、シリーズ全体の壮大なタイムラインを理解する上で非常に有用な資料となっています。

日本語版も出版されており、多くのSFファンに親しまれています。

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