眠る二人の子ども (ルーベンスの絵画)

ピーテル・パウル・ルーベンス作『眠る二人の子ども』について

『眠る二人の子ども』は、フランドルのバロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンスが1612年から1613年頃に制作した油彩の習作です。この作品は、ルーベンスの兄フィリップ・ルーベンスの子供たち、クララとフィリップを描いたものと考えられています。現在、この絵画は東京の国立西洋美術館に所蔵されています。

作品の特徴

この絵画は、習作ならではの即興的で素早い筆致が特徴的です。ルーベンスは暖色と寒色、透明色と不透明色を巧みに使い分け、さらに効果的なハイライトを用いることで、眠る幼い子供たちのあどけなさを生き生きと描き出しています。ルーベンスの写実的な描写力が遺憾なく発揮された作品と言えるでしょう。

美術史家のユリウス・ヘルトは、この絵に描かれた二人の子供は非常に似ているものの、右側の子供の方がわずかに年上で髪も長いと指摘しました。また、絵の様式から、この習作が1612年から1614年ごろに描かれたものと推定しました。そのため、ヘルトは右側の子供を1610年生まれの娘クララ、左側の子供を1611年生まれの息子フィリップであると結論付けました。

ルーベンスは、1611年に急逝した兄フィリップを悼み、『画家の兄フィリップ・ルーベンス』を制作し、兄の子供たちの後見人となりました。このことから、ルーベンスが子供たちを深く愛していたことが推測されます。ヘルトは、ベルリンの絵画館に所蔵されている『鳥を持つ子供』が、本作に描かれた左側の子供が3歳ほどに成長した姿を描いたものであり、1614年の作品であると主張しています。

一方、美術史家のジャッフェは、この絵に描かれた二人の子供は同一人物であると主張しています。ルーベンスが頭部の習作において、同一人物の頭部を異なる角度から複数描くことは珍しくありません。また、二人の子供の顔つきが、別人であると断定できるほど大きく異なるわけではありません。しかし、左側の子供だけが赤いビーズの首飾りを身につけている点は、二人を区別する要素だと考えられます。また、ベルリンの『鳥を持つ子供』も、本作の左側の子供と同じ赤いビーズの首飾りをつけています。

ジャッフェは、本作の制作年を1617年ごろと推定していますが、確固たる根拠があるわけではありません。

習作としての意義

この油彩習作は、16世紀以降のフランドル絵画工房における制作方法と深く関連しています。工房では、物語画を制作する際の参考として、様々な年齢や容貌の人物の頭部をさまざまな角度から描いた「トローニー」と呼ばれる油彩習作が制作されていました。この作品に描かれた子供たちの頭部は、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークにある『花輪の聖母子』や、パリのルーヴル美術館にある『聖母と天使』などの大型絵画にも用いられています。

まとめ

『眠る二人の子ども』は、ルーベンスの卓越した画力と、身近な人々への温かい眼差しが感じられる作品です。子供たちの無垢な寝顔を通じて、バロック美術の巨匠の人間的な一面を垣間見ることができるでしょう。

もう一度検索