眼鏡をかけた自画像 (ゴヤ)

眼鏡をかけた自画像（Self Portrait with Spectacles）

フランシスコ・デ・ゴヤの『眼鏡をかけた自画像』は、1800年に描かれた油彩作品で、現在、フランスのゴヤ美術館に所蔵されています。この作品はゴヤ自身をモデルにし、眼鏡をかけている姿が描かれているのが特徴的です。

制作の背景

ゴヤは視力の低下のため、1787年から眼鏡をかけるようになりました。また、1792年に重病を患い、聴力を失ってしまいますが、その影響を受けつつも画家としてのキャリアは順調に進展しました。この病気を経て、彼の作品にはより批判的かつ鋭い観察眼が現れ、想像力豊かな表現が強調されるようになりました。1799年には首席宮廷画家に任命され、1800年の『カルロス4世の家族』の制作においても、彼の独自のスタイルが色濃く表れています。

作品の特徴

『眼鏡をかけた自画像』では、暗い背景を背にして、緑色のシルクまたはベルベットの上着を纏ったゴヤの姿が描かれます。白いネクタイを優雅に結び、白髪交じりの髪を後ろに束ねた姿が印象的です。特に目を引くのは、彼がかけている眼鏡。これが彼の人生を象徴しているとも言われており、手元にある視覚的な制約を反映しているといえるでしょう。

彼の表情には疲れが見えるものの、眼鏡越しの真剣な眼差しで鑑賞者を捉えています。この視線は、単なる自画像を超え、観覧者との対話を試みているかのようです。興味深いことに、ゴヤはこの作品において、同じく暗い背景と類似の衣服をまとった姿で、他の集団肖像画である『カルロス4世の家族』にも自画像として登場します。

ゴヤ美術館の前館長であるジャン＝ルイ・オージェは、この二つの作品のポーズの類似性を指摘しており、この自画像は彼の王室の肖像画を描くという名誉を示すものであると述べています。さらにこの作品の緑色の上着には、オレンジ色の面を際立たせるような輝く光沢があり、黒い輪郭で肩が暗示的に描かれています。ボタンや白いハイライトは、光の遊びによって作品に密度を与え、深さと明るさを引き出しています。

来歴

『眼鏡をかけた自画像』の初期の来歴は明確ではありませんが、かつてマドリードのドン・アンヘル・マリア・テラディーリョスのコレクションに存在していたことが知られています。フランス画家マルセル・ブリギブールによって購入され、彼の息子によって1894年にゴヤ美術館に寄贈されました。

ヴァリアント

また、バイヨンヌのボナ美術館には本作品のヴァリアントが存在し、これが準備習作や模写、複製のいずれかであると考えられています。長年その真正性が疑問視されていましたが、2013年の科学的調査によってゴヤの作品であることが証明されました。構図などの点で非常に似た二つの作品の間にはやりとりがあった可能性があり、現在も両美術館間で議論が続いています。

このように、ゴヤの『眼鏡をかけた自画像』は彼の視覚的制約や感受性を反映した重要な作品であり、彼の芸術における成長や変化を理解する鍵となるものです。

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