矢倉中飛車

矢倉中飛車：急戦を制する後手の妙手

矢倉中飛車は、将棋における戦法の一つであり、相矢倉において後手番が用いる急戦矢倉の一種です。堅牢な矢倉囲いを築く先手に、後手は素早く攻め込み、主導権を握ることを目指す戦術です。

戦略と特徴

矢倉囲いは、その堅固さから定評があり、角道を遮断できる利点や引き角との相性の良さから、多くの棋士に好まれています。しかし、その駒組みには時間がかかるため、先手番が主導権を握りやすい相矢倉においては、後手番にとって不利に働く可能性があります。矢倉中飛車は、この点を逆手に取り、先手よりも早く攻勢に出ることで、主導権の奪取を狙う戦法です。

基本的な手順としては、△6四歩-6三銀と中飛車の形を作り、その後、△5一飛と飛車を下段に引き、△5四銀と要所に銀を配置します。その後は、5筋、6筋、7筋に飛車、角、銀、桂を配置し、先手の矢倉囲いを崩していくことを目指します。

この戦法の大きな特徴は、柔軟性です。△5二金-△6一飛から右四間飛車に転じることも可能ですし、△6二玉から玉を右に囲うスタイルも有効です。さらに、島朗棋士のように、独自の工夫を取り入れることも可能です。

歴史的背景

矢倉中飛車の着想は、江戸時代の矢倉対策の中飛車にまで遡ります。当時、矢倉は振り飛車に主流を奪われており、その対策として中飛車を用いることが有効とされていました。矢倉は左右の銀が分断され、中央が薄くなるため、その弱点を突く中飛車が有力な対抗策だったのです。

近代将棋においても、矢倉中飛車はプロ棋戦で用いられてきました。例えば、1982年の将棋JT日本シリーズでは、桐山清澄九段が矢倉中飛車を駆使したことが知られています。

先手の対策

先手番は、矢倉中飛車に対して様々な対策を講じます。代表的なものとしては、角を8八で受けに使い、右銀を5七に進めた後、7七に上がった銀を6八に引き直すという田中寅彦流の対策があります。これは、プロ棋戦でも広く用いられている定跡です。

また、近年では、矢倉先手番で急戦を避けるため、6六の歩を突かずに様子を見る指し方が増加しています。これは、矢倉中飛車を警戒し、先手が主導権を握るための戦略です。

プロ棋戦での動向

1980年代後半には主流戦法として使われましたが、近年はプロ棋戦での採用頻度は低くなっています。これは、先手の対策の進歩や、矢倉自体の人気の低下なども要因として考えられます。

藤井猛九段が創案した藤井流早囲いの出現なども、矢倉中飛車の減少に影響を与えたとされます。

まとめ

矢倉中飛車は、後手番が急戦で主導権を握るための戦法として、独特の面白さと奥深さを秘めています。その歴史、戦術、対策を理解することで、将棋の戦術的な幅を広げることが出来るでしょう。しかし、プロ棋戦では減少傾向にあることを踏まえ、その背景も理解する必要があります。 現代将棋における矢倉中飛車の位置付けは、個々の棋士の好みや戦略に大きく左右される、ニッチな戦法と言えるかもしれません。

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