矢川 (東京都)

矢川（やがわ）

概要

東京都の多摩地域に位置する矢川は、立川市と国立市に跨って流れ下る、比較的小規模な河川です。都市化が進んだ市街地の一画にありながらも、その流れの源泉をほぼ全て地下からの湧水に依拠している点が最大の特徴と言えます。このため、年間を通じてその水質は清らかに保たれており、川幅はさほど広くなく控えめな様相を呈していますが、都市部における貴重な自然空間としての役割を果たしています。

この矢川という名称は、地域の生活や交通に深く根差しており、例えば、地域の主要な交通結節点であるJR南武線の矢川駅の駅名はこの河川に由来するものです。また、国立市の行政区画である町名『矢川』も、この川の名前から名付けられました。このように、河川そのものの物理的な存在に加えて、その名称が地域の様々な事柄と結びついている点も、矢川の重要な側面です。

流路

現在の矢川の流路は、立川市羽衣町にある矢川弁財天のほど近くを起点としています。このあたりで湧き出した水が、河川としてのしっかりとした流れを形成し始めます。起点から流れ出した水は、まず地域の幹線道路である青柳大通りの下を東方向へと通り抜けていきます。都市のインフラである大通りの地下を潜行した後、流れは矢川緑地保全地域へと再び地上に姿を現します。

矢川緑地保全地域内では、都市部でありながらも比較的豊かな自然環境の中を蛇行しながら進みます。この地域は、矢川の清流とその周辺の生態系を保全するために指定されており、都市における生物多様性の維持にも貢献している地域の貴重な自然空間となっています。緑地を抜けた矢川は、今度は住宅地の中へと入っていきます。家々が立ち並ぶエリアを、あたかも細い糸が布地を縫うように、複雑に曲がりくねりながら流れ下っていきます。この区間では、地域住民の生活圏と非常に近い距離を流れており、身近な自然として親しまれています。

流れはさらに続き、国立市立国立第六小学校の敷地の際をなぞるように通過します。学校のすぐ脇を清流が流れる光景は、教育環境に自然を身近に感じさせる要素をもたらしていることでしょう。小学校付近を過ぎると、矢川は南へと進路を変え、日本を代表する幹線道路の一つである甲州街道（国道20号）を立体的に越える構造になっています。多くnの交通量がある都市の主要インフラである大通りと、小さな河川が交差する地点であり、都市景観の一つの特徴をなしています。

甲州街道を越えた矢川は、その旅の最終章を迎えます。流れは、この地域の農業を古くから支えてきた歴史ある用水路である府中用水から分かれた谷保分水へと注ぎ込まれ、その流れを終えます。この谷保分水との合流地点は、地元の人々の間では古くから『矢川おんだし』という独特の名称で呼ばれてきました。この名称は、おそらく矢川の水が谷保分水へ『送り出される』場所であることから名付けられたものと考えられており、この地域の農業や水利の歴史との関連を示唆しています。矢川自体の水量は多くありませんが、谷保分水に合流することで、周辺地域の水利システムの一部としてその役割を終えるのです。

このように、矢川は起点である湧水地から終点である農業用水路との合流点まで、都市部の様々な景観や生活空間、そして歴史的な水利システムの中を流れ、それぞれの場所で異なる表情を見せます。湧水を源とする清流であり、駅名や地名の由来ともなるなど、その物理的な存在だけでなく、地域の文化や歴史、人々の暮らしとも深く結びついた、多摩地域における大切な河川と言えるでしょう。都市化が進む中でも清らかさを保ち続ける矢川は、地域住民にとってかけがえのない自然の恵みであり、その保全が今後も求められています。

もう一度検索