矢矧 (軽巡洋艦)

軽巡洋艦矢矧：激動の艦歴と悲壮な最期

矢矧(やはぎ)は、大日本帝国海軍の軽巡洋艦であり、阿賀野型軽巡洋艦の3番艦です。艦名は、長野県から愛知県を流れる矢矧川(現在の矢作川)に由来しています。帝国海軍では、筑摩型防護巡洋艦に続いて2隻目の矢矧となりました。本艦は、数々の激戦を経験し、最終的に坊ノ岬沖海戦で大和などと共に沈没するという、悲劇的な最期を遂げました。

建造と初期の活動

1941年11月11日、矢矧は佐世保海軍工廠で起工しました。翌1942年8月20日、第134号艦として軍艦矢矧と命名され、能代と共に二等巡洋艦阿賀野型として登録されます。同年の9月25日には、高松宮宣仁親王臨席のもと進水式が行われました。進水式では機密保持のため、艦名は伏せられ、矢に萩の花をあしらった絵が描かれた酒盃が配られました。

1943年10月11日、吉村真武大佐が矢矧の艤装員長に任命され、12月29日に竣工。吉村大佐は初代艦長も務めました。竣工後は第三艦隊第十戦隊に編入され、1944年1月10日、佐世保を出発し瀬戸内海に向かいました。その後、シンガポールに派遣され哨戒や訓練に従事しました。

マリアナ沖海戦

1944年6月、矢矧は第一機動艦隊に所属し、マリアナ沖海戦に参加しました。この海戦では、第一機動部隊旗艦大鳳や翔鶴の沈没を目の当たりにし、多くの艦載機や艦船と交戦。激戦の末、大鳳の被雷、翔鶴の沈没、そして大鳳の爆発沈没を間近で目撃するなど、壮絶な体験をしました。しかしながら、矢矧自身は損害を受けずにこの海戦を生き延びました。

レイテ沖海戦

10月にはレイテ沖海戦に参加。栗田艦隊(第一遊撃部隊)に所属し、シブヤン海海戦では空襲を受け、至近弾や爆弾命中による損害を受けました。この戦闘で、速力が低下するも、応急修理によって速度を回復させ、翌日のサマール沖海戦にも参加しました。

サマール沖海戦では、米護衛空母部隊と交戦。魚雷攻撃や砲撃を行い、駆逐艦ジョンストンの撃沈を報告しましたが、実際には魚雷は命中しませんでした。この海戦後も空襲を受け続け、多くの損害を出しました。

レイテ沖海戦後、矢矧はブルネイに帰投し、損傷の修理を行いました。修理箇所は1000ヶ所以上にも及んだと伝えられています。その後、第二水雷戦隊に編入され、日本への帰還を命じられました。帰還途中、戦艦金剛と駆逐艦浦風が米潜水艦シーライオンの雷撃で沈没するも、矢矧は難を逃れました。

坊ノ岬沖海戦と最期

1945年4月、矢矧は菊水作戦に参加するため、戦艦大和と共に沖縄へ向かいました。4月7日、坊ノ岬沖において、アメリカ軍機の攻撃を受け、魚雷と爆弾の直撃により航行不能に陥りました。この後も激しい攻撃を受け続け、多くの損害を出しながらも、最後まで戦い続けました。14時5分、矢矧は沈没しました。乗組員446名が戦死、133名が負傷しました。

矢矧のその後

矢矧の艦名は、その後海上保安庁の巡視船に受け継がれました。現在、佐世保市の旧海軍墓地東公園には矢矧の慰霊碑が建立されています。また、レイテ沖海戦で損傷した艦橋の12cm高角双眼望遠鏡は、海上自衛隊江田島第一術科学校に収蔵されています。

矢矧の艦歴は、激動の時代を象徴するものであり、その勇敢な戦いぶりと悲劇的な最期は、今も人々の記憶に深く刻まれています。2022年には海上自衛隊のもがみ型護衛艦として「やはぎ」が進水し、その名を再び受け継いでいます。

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