矢野伊吉

矢野伊吉について

矢野伊吉（やの いきち、1911年5月11日 - 1983年3月18日）は、日本の著名な裁判官であり弁護士としても知られています。特に、財田川事件に関する弁護活動が評価され、多くの人々に記憶されています。

出身と教育

香川県三豊郡和田村、現在の観音寺市豊浜町に生まれた矢野は、旧制香川県立三豊中学校を経て、東京商科大学内にある経理事務講習所を卒業しました。この教育を受けた後、広島高等工業学校に勤務し、昼間は会計課職員として働いていました。

その傍らで、彼は独学で法律を学び、1937年には高等文官試験の司法科に合格しました。1939年には朝鮮総督府の平壌地方法院で判事としての職務を開始しました。

法曹界でのキャリア

矢野は1946年から松山地方裁判所、さらには高松地方裁判所で判事を務め、1967年には丸亀支部の長として職務を全うしました。その後、彼のキャリアにおいて、法律と正義の問題に多くの影響を与える事件が発生しました。

特に1969年、彼が担当していた高松地方裁判所で、財田川事件に関連した谷口繁義死刑囚からの私信を発見しました。この文書は無実を訴えるもので、矢野はこの内容が再審の請求として受理されるべきだと判断しましたが、他の陪席裁判官の反対に直面し、再審請求は断念されました。

再審請求への取り組み

高松地方裁判所を退官した矢野は1970年に弁護士として新たなスタートを切りました。そして、谷口の弁護人として再審請求を提出しましたが、彼自身が公務員として担当した事件を扱うことを禁じる弁護士法に抵触したという理由で懲戒処分を受けました。再審請求は地裁及び高裁で棄却され、最高裁にも特別抗告を行いました。

1976年、最高裁は再審請求の不受理に関して審理の不当性を認定し、本件を地裁に差し戻す旨の決定を下しました。この時、最高裁は矢野の努力を一部評価する一方で、彼が世論を煽る行為についても批判を行っています。その後、1979年に高松地方裁判所は再審開始を決定し、1981年には実際に再審が始まる運びとなりました。

最後の時

矢野伊吉は1983年3月18日、71歳で亡くなりましたが、その取り組みは財田川事件の次代に影響を与えました。彼の死後、1984年3月12日に財田川事件で無罪判決が下されました。これは矢野が注力した正義の象徴として、今もなお語り継がれています。

著書

矢野の考え方や信念は、彼の著作『財田川暗黒裁判』に詳しく記されています。この本は1975年に立風書房から発刊され、財田川事件に関する貴重な情報源としても評価されています。

このように矢野伊吉は、日本の法曹界における誠実な活動を通じて、多くの人々に影響を与え、その業績は歴史的な意義を持っています。

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