矢野兼三

矢野兼三：激動の時代を駆け抜けた官僚

矢野兼三（やの けんぞう）は、1896年（明治29年）9月13日に生まれ、1981年（昭和56年）2月19日に亡くなった、日本の内務・警察官僚です。官選の富山県知事や陸軍司政長官を歴任し、激動の時代を生き抜きました。号は蓬矢（ほうし）です。

生い立ちと初期のキャリア

矢野兼三は、大阪市で矢野治三郎の三男として誕生しました。1919年に私立関西大学法律学科を卒業後、桜セメントに入社。しかし、官僚への志を抱き、1920年10月には文官高等試験行政科試験に合格しました。翌1921年には内務省に入省し、社会局嘱託としてキャリアをスタートさせました。

地方官僚としての活躍

内務省入省後、矢野は地方官僚として様々な役職を歴任しました。京都府愛宕郡長を皮切りに、警視庁事務官、青森県書記官・学務部長、千葉県書記官・警察部長、警視庁官房主事、岡山県総務部長などを歴任し、地方行政と警察行政の両面で手腕を発揮しました。

富山県知事時代

1938年4月、矢野は富山県知事に就任しました。当時は戦時下であり、県知事として戦時体制への対応に尽力しました。しかし、1941年1月に休職となります。その後、1942年7月7日に陸軍司政長官に発令されました。

陸軍司政長官として

陸軍司政長官となった矢野は、同年8月1日に第25軍軍政監部付・西海岸州（州都パダン）長官に就任し、1944年4月までその任を務めました。占領地の行政を担い、戦時下における重要な役割を果たしました。

戦後の活動

戦後、矢野は永田精機 (株) の常任監査役を務めるなど、実業家としての顔も見せました。また、三無事件（1961年）の首謀者である川南豊作に、三無主義（無税・無失業・無戦争）を教えたことでも知られています。川南の影響下で設立された日本産業開発株式会社の顧問も務めました。

著作活動

矢野は官僚としての活動の傍ら、著作活動にも力を入れていました。『工場災害扶助論 : 工場扶助法令解説』(1931年)、『工場風景』(1931年)、『工場と地域制』(1932年)など、工場や労働問題に関する著作を発表。また、『随筆　村を廻る』(1939年)、『常会に聴く』(1940年)、『漬物石 : 人間吏となる亦風流』(1941年)などの随筆や評論も執筆し、幅広い分野でその知識と見識を示しました。戦後には、『銃口に立つ』(1961年)や『獄中記 : 秘められたる終戦残酷物語』(1962年)などを発表し、戦時中の体験や思想を語っています。

栄典

1940年（昭和15年）8月15日には、紀元二千六百年祝典記念章を授与されています。

まとめ

矢野兼三は、内務・警察官僚として地方行政に携わり、戦時下には富山県知事や陸軍司政長官として国政に関わるなど、激動の時代を多岐にわたる分野で活躍した人物です。その生涯は、日本の近代史における重要な一側面を映し出しています。

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