短胃動脈

短胃動脈



概要


短胃動脈(たんいどうみゃく、英語: short gastric arteries)は、消化器系の重要な臓器である胃に血液を供給する血管の一部です。特に、胃の大きな湾曲部である胃大彎の上部領域、主に胃底部や胃体部上部に血流を供給する役割を担っています。この動脈は、他の胃動脈に比べて比較的短く、数本の細い枝から構成される血管群です。

由来と構造


短胃動脈の主要な供給源は、腹腔動脈から分岐する大きな血管である脾動脈です。具体的には、脾動脈が最終的に脾臓へと向かう末端部分や、その終末部から分岐して発生します。一般的に、短胃動脈は5本から7本程度の小さな動脈枝として見られます。これらの枝が、胃への血流を確立します。

走行と分布


これらの小さな動脈枝は、胃と脾臓の間にある腹膜のひだである胃脾間膜の内部を走行します。間膜の二層の間を、脾臓側、すなわち体腔の左側から胃のある右側へと進んでいきます。そして、胃の大彎の上部に到達し、胃壁の筋層や粘膜下層などに分岐しながら血流を供給します。供給される領域は、主に胃の上端に位置する胃底部および、その下方に続く胃体部の大彎側上方部分です。

他血管との吻合


短胃動脈は、胃に血流を供給する他の主要な血管系とも連絡を取り合っています。具体的には、腹腔動脈から直接、あるいは間接的に分岐して胃の小彎側や大彎側下部を走行する左胃動脈や左胃大網動脈といった血管の末梢枝と相互に吻合(血管同士が連絡して網を形成すること)します。このような血管網は、ある血管の血流が障害された際に、他の血管から血流が供給されることで組織の虚血を防ぐ側副血行路として機能することが一般的です。

特徴と臨床的意義


しかし、短胃動脈には他の胃動脈とは異なる重要な特徴があります。胃を栄養する主要な動脈には、短胃動脈の他に左胃動脈、右胃動脈左胃大網動脈、右胃大網動脈などがありますが、これらの血管が閉塞した場合、互いの吻合網が発達しているため、供給領域の血流がある程度維持されやすい傾向があります。これに対して、短胃動脈の直接的な供給源である脾動脈本体の血流が途絶えた場合、左胃動脈や左胃大網動脈などとの吻合を通じた代替血流の供給が、他の胃動脈の供給領域における側副血行路ほど十分に機能しないことが知られています。このため、脾動脈が閉塞したり、あるいは脾摘出術などで脾動脈の血流が遮断されたりした場合、短胃動脈が支配する胃底部や胃体部上部大彎側といった領域の血流が比較的障害されやすく、虚血のリスクが高まる可能性があります。この特徴は、脾臓やその周囲の血管に関わる外科手術や病態を理解する上で重要な解剖学的知見となります。

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