硫酸銀(I)

[硫酸]][[銀]とは

[硫酸]]銀]（りゅうさんぎんいち）、[英語ではSilver(I) sulfateとして知られるこの物質は、化学式Ag₂SO₄で表される1価の銀の硫酸塩です。外観は無色の結晶で、斜方晶系の構造を持っています。一般的には、光や空気にさらされることで黒ずむ性質がありますが、通常の取り扱いの範囲内では非常に安定しています。水に対してはわずかに溶解し、1リットルの水に対して約0.796gの硫酸[[銀]が溶けます。

製法

[硫酸]]銀]を製造するためには、主に二つの方法があります。第一の方法は、[銀を強酸性の熱濃硫酸に溶解し、さらに水で希釈するという化学反応です。以下に示す反応式で表されるように、銀と硫酸が反応し、硫酸水素銀が生成されます。これをさらに加熱すると、硫酸[[銀]が得られます。

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2Ag + 3H₂SO₄ ⟶ 2AgHSO₄ + SO₂ + 2H₂O
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そこで生成された[硫酸]]水素銀がさらに反応して、硫酸[[銀]が形成されます。

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2AgHSO₄ ⟶ Ag₂SO₄ + H₂SO₄
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第二の方法は、[硝酸]]銀]の[[水溶液に希硫酸または硫酸塩水溶液を加えることで銀イオンと硫酸イオンが反応し、結晶が沈殿する方法です。この手法は「水性沈殿法」と呼ばれ、商業的にも広く採用されています。

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2Ag^+(aq) + SO₄^{2-}(aq) ⟶ Ag₂SO₄
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さらに、硫化[銀]を空気中で1085度以下で焼成することによっても[硫酸]][[銀]を得ることが可能です。

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Ag₂S + 2O₂ ⟶ Ag₂SO₄
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性質

[硫酸]]銀]は無色の細かい結晶であり、[[光によって黒化しやすい性質があります。水に対しての溶解度は低いですが、温水に溶解しやすい特性があります。また、硫酸や硝酸に溶解すると硫酸水素塩が生成され、アンモニア水ではアンミン錯体を形成します。ここで生成される硫酸水素銀は加水分解により、容易に硫酸銀に戻ります。これに関連する反応は次の通りです。

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Ag₂SO₄ + H^+ ⇄ 2Ag^+ + HSO₄^−
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また、アンモニアと反応すると、次のような反応が起こります。

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Ag₂SO₄ + 4NH₃ ⟶ 2[Ag(NH₃)₂]^+ + SO₄^{2−}
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[硫酸]]銀]の[[水に対する溶解度積は、次のように定義されます。水中に含まれる銀イオンや硫酸イオンの活量の積が非常に小さく、1.2×10⁻⁵の数値を示します。

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K_{sp} = 1.2 imes 10^{-5}
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用途

[硫酸]]銀]は多くの用途で利用されています。合成試薬としてのほか、触媒、写真材料、抗菌材料など、多岐にわたる応用があるのです。具体的には、[[ポリスチレンのスルホン化反応における触媒として用いたり、抗菌性を利用した創傷被覆材に使われたりしています。さらに、黒変する性質を利用した白髪染めに活用されることもあります。

また、古典的な[銀]]精錬法において、粗銀中に含まれる金や銅などの不純物を除去するためにも用いられました。銀だけが硫酸に溶解する性質を利用し、不純物を効率的に除去することができたのです。化学分析の分野では、化学的酸素要求量（COD）の分析の際に、塩素をマスキングするための銀イオン源として役立てられています。これは、硫酸銀]中の[[銀イオンが塩素と反応して不溶性の塩化銀(I)を生成する性質に基づいています。

毒性および規制

[硫酸]]銀]に関する有害性のデータはほとんど得られていませんが、[[硫酸塩として皮膚や目、気道に対して刺激性がある可能性が指摘されています。また、銀化合物全般に共通する性質として、長期間の暴露が銀皮症を引き起こすことがあります。水生生物に対しては極めて強い毒性を示しており、これを受けてGHS（Globally Harmonized System）においては水生環境への有害性が高い物質として分類されています。日本においても、無機銀塩類として劇物に指定されており、その取り扱いには細心の注意が必要です。

参考文献

千谷利三『新版 無機化学（上巻）』産業図書、1959年。

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