磯子火力発電所

磯子火力発電所とは

磯子火力発電所は、神奈川県横浜市磯子区に所在する、電源開発株式会社（J-POWER）が運営する石炭を燃料とする火力発電所です。東京電力および東北電力へ電力を供給する重要な拠点となっています。

沿革と設備の更新

磯子火力発電所の歴史は1967年に遡り、当時の1号機が運転を開始しました。その後2号機が建設され、首都圏における電力供給を支えてきました。しかし、1990年代後半に入ると設備の老朽化が顕著となり、旧設備は2001年までに順次廃止されました。これに代わる形で、最新技術を導入した新1号機および新2号機が建設され、それぞれ2002年と2009年に営業運転を開始しています。これにより、発電能力の向上と環境性能の大幅な改善が実現しました。

発電設備概要

現在の磯子火力発電所の総出力は120万kW（暫定116.2万kW）です。

新1号機
定格出力：60万kW
使用燃料：石炭
蒸気条件：超々臨界圧（Ultra Super Critical）
熱効率：高位発熱量基準 43%、低位発熱量基準 45%
営業運転開始：2002年4月

新2号機
定格出力：60万kW（暫定56.2万kW）
使用燃料：石炭
蒸気条件：超々臨界圧（USC）
熱効率：高位発熱量基準 43%、低位発熱量基準 45%
営業運転開始：2009年7月

新1号機、新2号機ともに、高効率を追求した超々臨界圧ボイラー・タービンを採用しています。旧設備は総出力53万kWで、熱効率は高位発熱量基準で38%でした。

発電所の特徴

磯子火力発電所は、石炭火力発電所として世界最高水準の発電効率と環境対策を誇ります。燃料となる石炭は国内炭と輸入炭が使用され、1日あたり約5,000トンが消費されます。石炭は本牧の中継基地から海上輸送され、10万トン貯蔵可能なサイロに蓄えられます。年間約38万トン発生する石炭灰は、その9割以上がセメント原料として有効活用されています。

環境対策においては、大気汚染防止のため、アンモニア選択接触還元式の脱硝装置、電気集塵機、活性炭吸着式の脱硫装置といった最新鋭の設備を備えています。これにより、旧設備を大幅に上回る高度な排煙処理が行われています。

また、限られた敷地を最大限に活用するため、日本で初めてタワー式ボイラーを採用しました。新1号機のボイラー建屋は高さ約100mにも及び、日本の発電所建屋としては最も高い部類に入ります。煙突は高さ200mで、地域の景観（特に三渓園方面）に配慮し、断面を扁平な形状にする工夫が凝らされています。建屋や煙突の色彩も景観に配慮されており、2002年には公共の色彩賞を受賞しています。新2号機のボイラー建屋が新1号機より約20m低い位置に建設されているのは、隣接するJERA南横浜火力発電所の煙突への風の影響を避けるための配慮であり、実質的なボイラーの高さは両機とも同じです。

発電効率の向上は、主蒸気温度600℃、再熱蒸気温度610℃（新2号機では620℃）、主蒸気圧力25.0MPaという超々臨界圧の条件を実現したボイラーと蒸気タービンの採用によって達成されました。これにより、熱効率は高位発熱量基準で43%となり、石炭火力としては世界最高水準に達しています。

主なトラブル

構内での火災：2011年11月、石炭貯蔵関連施設で火災が発生し、発電が一時停止しました。迅速な復旧作業により、翌2012年1月には運転を再開しています。
低圧タービン動翼折損：2012年12月、新2号機の低圧タービン動翼の一部が折損する事態が発生し、発電を停止しました。応急措置として、折損した動翼を取り外し、圧力プレートを設置することで2013年6月に運転を再開しました。この措置により、新2号機の定格出力は暫定的に56.2万kWとなっています。

環境への取り組み（横浜方式）

磯子火力発電所が建設された場所は、1960年代の根岸湾埋立事業によって造成されました。当時、四日市コンビナートなどに代表される深刻な公害問題が社会的な関心事となっており、横浜市でも地域住民による公害追放運動が活発化していました。こうした背景を受け、横浜市は住民の健康と産業振興の両立を目指し、国の法律よりも厳しい排出基準を設けた公害防止協定を企業と締結する、いわゆる「横浜方式」を推進しました。磯子火力発電所もこの協定に基づき、厳格な環境対策を講じており、現在では世界でも有数のクリーンな石炭火力発電所としての評価を得ています。

アクセス

公共交通機関を利用する場合、横浜市営バスの85系統に乗車し、「Jパワー前」停留所で下車するのが便利です。

（注：記載されている発電設備出力や熱効率、運転期間等の数値は入力情報に基づきます。）

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