示準化石

示準化石（しじゅんかせき）

示準化石とは、その化石が含まれる地層がいつの時代にできたものか、その年代を特定するための手がかりとなる化石です。別名「標準化石」とも呼ばれます。

地質学における重要性

地質学では、異なる地域に分布する地層が、同時期に形成されたものかどうかを比較する研究（地層対比）が重要です。現代では放射性元素の崩壊を利用した放射年代測定によって地層の絶対年代を知ることができますが、これが実用化される以前は、地層に含まれる化石が地層対比や年代推定の唯一の手段でした。特に、特定の時代を示す指標となる化石が強く求められました。

化石が地層の年代を知る鍵となることに最初に注目したのは、18世紀末から19世紀にかけて活動したイギリスの地質学者ウィリアム・スミスです。彼は、特定の化石の組み合わせが特定の地層に特徴的に見られるという観察に基づき、離れた場所の地層でも化石を調べることで年代を同定できるという画期的な知見を得ました。この考え方は後に「動物相の法則（地層同定の法則）」として体系化され、スミスはこれを応用して世界で初めて本格的な地質図を作成し、地質学の発展に大きく貢献しました。

示準化石の条件

示準化石として有用であるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。主な条件は以下の通りです。

特定の時代にのみ生息した、あるいは短期間で形態が大きく変化した生物であること
長い時代にわたって形態が変わらない生物や、特定の時代にだけ存在しない生物の化石では、厳密な年代を特定できません。特定の限られた地質時代にのみ繁栄し、時代によって形態が識別できるほど変化した生物の化石が適しています。
広い地域にわたって分布した生物であること
特定の狭い地域にしか生息しなかった生物の化石では、他の地域にある地層との比較や広範囲の年代決定に利用できません。世界中の様々な場所で見つかることが重要です。
個体数が多く、比較的容易に発見される生物であること
個体数が少なく珍しい生物の化石では、発見される頻度が低く、普遍的な指標として使いづらいです。多くの場所にたくさん産出する生物の化石の方が、調査における有用性が高まります。
（多くの場合）現在は生存していない絶滅生物であること
現生の生物の化石では、その地層が非常に新しい時代にできたことしか分かりませんが、絶滅した生物の化石であれば、それが生きていた時代の範囲を特定できるため、より具体的な年代の指標となります。

これらの条件を満たす生物としては、一般的に、硬い殻や骨格を持ち、比較的速い速度で形態が進化し、海などの広い環境に適応して多数生息したものが挙げられます。

代表的な示準化石

示準化石としてよく知られているものには、地質時代ごとに様々な種類があります。

古生代
三葉虫（さんようちゅう）: 古生代初期から末期にかけて繁栄し、時代によって形態が大きく変化するため、特に古生代の示準化石として非常に重要です。
フズリナ: 大型で紡錘形の有孔虫（原生生物）で、古生代後期の示準化石として広く利用されます。
筆石（ひっせき）: 海生の群体性動物で、古生代前半の示準化石として用いられます。
腕足類（わんそくるい）
中生代
アンモナイト: 巻き貝のような形をした頭足類で、中生代を通じて多様に進化し、世界中に広く分布したため、中生代の代表的な示準化石です。
三角貝（さんかくがい）: 二枚貝の一種で、特に中生代ジュラ紀から白亜紀にかけての示準化石です。
その他、特定の時代の二枚貝や巻き貝、甲殻類なども示準化石として利用されます。
新生代
哺乳類
貨幣石（かへいせき）: 円盤状の大型有孔虫で、新生代前半の示準化石です。

微化石の利用

アンモナイトなどの大型化石に加え、顕微鏡で観察する非常に小さな化石（微化石）も示準化石として非常に有用です。特に、海に浮遊して広範囲に分布するプランクトンなどの微化石が重要視されています。代表的なものに、浮遊性有孔虫、放散虫（ほうさんちゅう）、珪藻（けいそう）、石灰質ナノプランクトンなどがあります。

微化石の利点は、岩石の中に非常に多数（拳ほどの試料に数百〜数十万個）含まれていることが多く、また、大型化石が見つからないような岩石からも発見されることが多い点です。これにより、より詳細で精密な年代決定が可能になります。

化石の移動と示準性

示準化石が正しく年代を示すためには、その生物が死んで化石になった後、もともと堆積した場所から移動していないことが極めて重要です。例えば、地滑りのような乱泥流によって堆積物ごと移動したり、生物が巣穴を掘るなどの活動（生物擾乱）によって地層が掘り起こされたりした場合、発見された化石は本来その層ができた時代の指標ではなくなってしまいます。特に微化石は小さいため移動しやすく、再堆積の可能性を慎重に評価する必要があります。示準化石として利用する際には、化石が本来の堆積位置にあることを確認する作業が不可欠です。

その他

SF作家・小松左京のショートショートに、『標準化石』というタイトルの作品があります。これは、ある地層から異なる年代の示準化石が、年代順にきれいに並んで発見されるという奇妙な出来事を描いた物語です。

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