祈りのカルテ

『祈りのカルテ』と『祈りのカルテ 再会のセラピー』

知念実希人による日本の医療ミステリ小説『祈りのカルテ』は、全5話からなる連作短編集の形式で、2018年に初めて刊行されました。この作品は、医療現場のリアルな描写と人間ドラマを交えたストーリーが魅力で、主人公の研修医・諏訪野良太が、さまざまな患者との出会いを通じて成長していく様子が描かれています。2021年には文庫版が発売され、さらに2022年には続編『祈りのカルテ 再会のセラピー』が刊行されました。また、本作は2022年10月から12月にかけてテレビドラマ化され、多くの視聴者に親しまれました。

あらすじ：『祈りのカルテ』

主人公の諏訪野良太は、純正会医科大学を卒業し、同大学附属病院で研修医として勤務を始めます。彼は各科を回りながら、今後の進路に悩む日々を送っています。本作では、彼が関わる5つの患者の物語が展開され、各エピソードで描かれるのは、医療ミスの危機や人間関係のトラブル、心の痛みなどです。

彼女が瞳を閉じる理由

初めての精神科研修中、諏訪野は睡眠導入剤を過剰摂取した若い女性患者・山野瑠香のケースに直面します。瑠香は、元夫の暴力から逃れるために、自ら救急搬送を求めていたことが判明し、諏訪野は真相を追います。彼は瑠香の問題に真剣に向き合い、彼女を助けるために奔走します。

悪性の境界線

外科研修において、諏訪野は老齢の患者・近藤玄三と遭遇します。彼は保険金を意識し、リスクの高い開腹手術を希望する理由があることを突き止め、背後に潜む家族の事情とも向き合わせていきます。

冷めない傷痕

皮膚科の研修中、諏訪野は火傷を負った女性・守屋春香の症例に関わります。彼女が過去の恋人との関係に縛られていることを理解し、DVの可能性を考慮しながら彼女の真実を探る努力が描かれています。

シンデレラの吐息

小児科での研修では喘息の少女・姫井姫子との出会いがあります。入院の背後には両親との複雑な関係が表れ、父親の面会を避けた背景を探ることで、家族の絆を描くエピソードになります。

胸に嘘を秘めて

循環器内科ではかつての人気女優が登場し、彼女の臓器移植を巡る秘密と願いが主軸になります。母親の意向に反し、彼女の最後の願いを叶えるために努力する諏訪野の姿が強調されます。

あらすじ：『再会のセラピー』

続編『再会のセラピー』では、30歳になった諏訪野が医学生時代の仲間との再会を通じて、かつての経験を振り返る形で物語が再スタートします。彼が救命救急部での研修や、変わった指導医との関係、印象深い患者とのエピソードを回想し、医療現場での深い人間ドラマが描かれています。

本作は、医療をテーマにしたミステリの中で、患者とのつながりや人間の温かさ、助け合いの大切さを再認識させる作品となっています。知念実希人は、医療現場の厳しさとその中で光るヒューマニティを見事に描き出しています。

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