祖父の代までも

祖父の代までも（As for back as his grandfather）

フランシスコ・デ・ゴヤによって1797年から1799年にかけて制作された銅版画『祖父の代までも』は、80点から成る版画集《ロス・カプリーチョス》の中の第39番作品です。この作品では、貴族たちが自らの出自を誇示する姿をロバを通して風刺しており、特に彼らの愚かさを浮き彫りにしています。ゴヤはこの作品をエッチングではなく、主にアクアチント技法のみで仕上げていることが特徴的です。

制作背景

18世紀後半、欧州では啓蒙主義の影響が広まり、世襲貴族に対する風刺が盛んに行われていました。知識人たちは、過去の栄光を誇る貴族を時代遅れの存在と見なし、近代化を進めるためには彼らの影響を排除する必要があると考えていました。その流れの中で、ホセ・カダルソは『モロッコ人の手紙』を通じて、世襲貴族の無意味さを厳しく非難しました。このような批判は広まり、一般の人々にも受け入れられるようになっていきました。

作品内容

『祖父の代までも』では、人間の姿をしたロバが机の前に座り、誇らしげに家系図を見せている様子が描かれています。ロバが開いている書物には、自身の祖先が描かれており、少なくとも17代さかのぼる系譜が示されています。背景にはフクロウのシルエットがあり、暗闇に包まれた空間の中で、ロバの一族の象徴である盾形紋章も見受けられます。この点から、自らの貴族性を誇示しようとする姿勢が、風刺的な手法で表現されています。

元々、18世紀の環境では貴族たちが自らの起源や家系図に執着し、自尊心を満たそうとしている様子が広まりましたが、ゴヤはその愚かさをロバを使って嘲笑しています。ロバは伝統的に「無知」や「愚鈍」の象徴であり、貴族たちの系譜を辿ることは、その愚かさを世襲することを意味します。特に、当時の名宰相マヌエル・デ・ゴドイがしばしば批判の対象として描かれる時々もあります。

図像的源泉

この作品の直接の源泉は、ゴヤが1794年から1795年の間に制作した素描であり、文学者のロバに変装したキャラクターが描かれています。ロバの姿を用い、無知を象徴する文学者批判が盛り込まれており、段階を追って批判の対象は世襲貴族へと変化していきます。背景や装飾が変更されることで、本作が持つ複雑なメッセージが見え隠れしているのです。

技法と来歴

この作品はアクアチント技法でのみ製作されており、当時のスペインではあまり用いられなかった新しい技法でした。また、ゴヤは1780年代からアクアチントを使い始めており、通常のエッチングを補完していた背景がありますが、《ロス・カプリーチョス》制作中にアクアチントの可能性を探ったことは間違いありません。

この作品の準備素描はプラド美術館に収蔵されています。ゴヤが亡くなった後、彼の息子や孫を経て、最終的にプラド美術館が購入することになります。

ギャラリー

『祖父の代までも』は多くの批判的作品の一つとして位置づけられています。貴族社会の風刺を含む他のロバの作品と共に、スペインの文化における重要な存在とされています。彼の作品は、単なる視覚的表現を超え、当時の社会状況や人々の心理を浮き彫りにする手段となっています。

この作品に対する理解を深めるためには、貴族とその社会的地位に関する歴史的文脈を考えることが非常に重要です。近代化の過程において、貴族がいかにして社会に受け入れられない存在となっていくのか、またその影響が文化に及ぼした影響を考察することで、絵画の背後にあるメッセージをより深く理解できるでしょう。

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