神と野獣の日

『神と野獣の日』 説明

松本清張による長編小説『神と野獣の日』は、1963年に「女性自身」で連載され、同年に単行本が刊行されました。この作品は、SF的な設定を持ちながらも、現実の危機的状況を描写しており、特に核ミサイルの誤射による混乱と人々の反応に焦点を当てています。

発表の背景

本作は、冷戦が続く1960年代初頭に発表されました。この時期、核兵器による脅威は現実のものとして認識され、松本清張はその恐怖を作品に織り込みました。物語は、Z国から東京に向けて誤射された5基の核弾頭ミサイルが着弾するまでの43分間を描いています。この間に政府がどのように対応し、人々がどのような行動をとるかが物語の中心となっています。

主な登場人物

• - 総理大臣：62歳で、この前例のない危機に直面します。
• - 統幕議長：防衛省のトップで、状況を総理に急報します。
• - 官房長官：総理大臣の側近として、危機対応にあたります。
• - 戸上佐知子：虎ノ門で働く女性で、混乱の中で故郷に戻ろうとします。
• - 木村規久夫：佐知子の恋人で、彼女を待ち続けます。

あらすじ

物語は、早春の午後に官邸に電話がかかるところから始まります。内容は、Z国からの5基の核弾頭ミサイルが東京に向けて誤射されたというもので、到達までの時間は43分です。総理は一度は官邸にとどまる決意をしますが、国民への告知を急ぐように促され、結果的に真実を伝えることを決めます。

東京都民はその知らせに接し、混乱が広がります。交通事故、地下鉄のトラブル、そして治安維持のための発砲が相次ぎ、大勢が命を落とします。一方、佐知子は恋人の規久夫に会うため新宿へ向かいます。

総理は大阪に臨時政府を立てて国民に冷静になるよう呼びかけますが、この呼びかけは逆に混乱を助長します。各々は絶望の中で様々な行動を取り、人々の行動がリアルに描かれています。最終的に1発のミサイルが着弾しますが、不発であったため人々は一瞬の安心を得ます。ところが、それをよそに更なるミサイルが迫ってきます。

作品の評価

清張がSF的な視点から人間の心理を描く中、作品は単なるエンターテインメントを超え、現実社会に警鐘を鳴らすような深いメッセージを持っています。特に、当時の政治家や官僚の対応には、喜劇的な要素が見受けられます。権田萬治や鏡明といった評論家たちは、作品が持つ独自の視点や、時代背景における意義について高く評価しています。

結論

『神と野獣の日』は、1960年代の日本における核の恐怖を描いた重要な作品であり、現代においてもなお重要な示唆を提供しています。清張の鋭い観察力と洞察力によって描かれた極限状態における人間の姿は、読者に深い印象を与え続けています。

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