神取道宏

神取道宏は、1959年生まれの日本の経済学者です。特にミクロ経済学とゲーム理論を専門とし、長年にわたり日本の経済学界を牽引してきました。現在は東京大学大学院経済学研究科の教授、そして東京大学特別教授の要職にあります。

幼少期には画家を志し、中学時代は漫画部に所属するなど、芸術への関心を持つ少年でした。高校時代に社会科学に漠然とした興味を抱き始め、東京大学文科二類に進学。その後、経済学部に進み、学部時代には根岸隆氏のゼミナールで最新の一般均衡理論を学ぶ傍ら、「文Ⅱ文化」というサークル活動を通じてマックス・ウェーバーやカール・マルクスといった古典にも深く触れました。

東京大学経済学部を卒業後、同大学の大学院経済学研究科に進学。大学院生の頃には、当時助教授であった奥野正寛氏らが著した『ミクロ経済学Ⅰ』の校正や助言にも携わっています。大学院在学中にアメリカへ留学し、1989年にスタンフォード大学からPh.D.を取得。同年にペンシルベニア大学経済学部の助教授として教職に就きました。その後、プリンストン大学経済学部助教授（1990年-1993年）を経て日本に帰国し、東京大学経済学部の助教授に就任（1993年-1996年）。引き続き同大学大学院経済学研究科の助教授（1996年-1999年）を務め、1999年からは同研究科の教授として現在に至ります。2019年には東京大学特別教授の称号が与えられました。

神取教授の研究は、ミクロ経済学とゲーム理論の分野で特に国際的に高く評価されています。社会規範の形成や維持、進化ゲームのダイナミクス、そして不完全な情報の下での繰り返しゲームに関する研究は、この分野の先駆的な業績として知られています。近年では、マーケットデザインや実験・行動経済学といった新しい領域にも研究の幅を広げています。

その業績は国内外で高く評価されており、2002年には優れた若手経済学者に贈られる日本経済学会の中原賞を受賞しました。また、繰り返しゲームに関するサーベイ論文である「Introduction to Repeated Games with Private Monitoring」は、ノーベル賞選考委員会の参考文献としても挙げられています。2017年には趙楽教経済学賞を受賞しています。私生活では2002年に結婚し、二人の息子がいます。

教育活動においてもその評価は高く、東京大学で長年担当している学部生向けの「ミクロ経済学」の講義は、「超が付くほど評判の授業」として知られ、終了後には大教室で拍手が巻き起こるほどの人気ぶりです。経済学者の松島斉氏は、神取教授を「現在東京大学大学院経済学研究科における重要人物」と評しています。趣味はワイン、音楽、映画、絵画と多岐にわたります。

主要な著作には、『ミクロ経済学の力』、『人はなぜ協調するのか──くり返しゲーム理論入門』などがあり、また多くの重要な英語論文や日本語論文を発表しています。アブナー・グライフの『比較歴史制度分析』の共訳も手掛けるなど、研究者として多角的に活躍しています。

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