松島斉

松島 斉（まつしま ひとし）氏は、1960年6月4日に東京都で生まれ、現代日本を代表する経済学者の一人として活躍しています。現在、東京大学経済学部の教授を務めており、特にゲーム理論を中核とした幅広い分野で、理論経済学の研究と教育に貢献しています。

氏の学問の道は、1979年に駒場東邦中学校・高等学校を卒業し、東京大学に入学したことから始まります。大学時代、根岸隆氏や小林昇氏といった著名な教授のゼミにも関心を寄せつつ、友人である神取道宏氏の勧めで宇沢弘文氏のゼミに入室しました。当初は宇沢ゼミで扱われるテーマへの興味が薄れがちでしたが、その中で「情報の非対称性」という概念に触れたことが、氏のその後の研究人生を決定づける転機となります。

特に、ジョージ・アカロフ氏の1970年の論文「レモン市場」における中古車市場の分析に感銘を受け、この情報の非対称性という概念をゲーム理論と組み合わせることで、経済学が探究に値する深遠な分野であることを確信したといいます。この着想に基づき執筆された卒業論文は、後に2003年に新設された大内兵衛賞を受賞するなど、早くからその才能が高く評価されました。

東京大学大学院で経済学をさらに深め、1988年には経済学博士号を取得しました。その後、研究者としての見識を広げるため、米国のスタンフォード大学およびプリンストン大学へ留学。帰国後は、筑波大学助教授、東京大学助教授を経て、2002年4月より現職である東京大学経済学部教授に就任しました。

専門分野はゲーム理論に深く根ざしていますが、研究対象は理論経済学、ミクロ経済学、数理経済学、公共経済学、厚生経済学、企業経済、産業組織論、労働経済学、情報経済学、そして行動経済学など、非常に多岐にわたります。また、理論研究にとどまらず、実験経済学を研究と教育の双方に取り入れていることも特徴です。

特筆すべき業績として、東京大学大学院在籍中に、ゲーム理論の枠組みを用いて、社会選択理論における大多数のルールが「実行可能」であることを世界で初めて理論的に証明したことが挙げられます。これは、社会的な意思決定のメカニズムを設計する上で極めて重要な基礎的発見でした。以来、メカニズムデザインや繰り返しゲームといった理論経済学の基礎研究を継続的に行っています。

こうした学術的な功績に対し、2004年には第10回日本経済学会中原賞を受賞しています。国際的にもその研究は高く評価されており、2003年からはEconometric Societyのフェローに、2007年からは同組織の理事（Council）にも就任しています。

研究活動に加え、一般向けの著書も複数刊行しており、経済学の知見を広く伝える活動も行っています。

主な単著に以下のものがあります。

『ゲーム理論はアート――社会のしくみを思いつくための繊細な哲学』（日本評論社, 2018年）
『わかりやすさのための制度設計――ゲーム理論と心理学の融合』（三菱経済研究所, 2018年）
『金融システムの行動ゲーム理論――バブルと危機』（三菱経済研究所, 2019年）
『サステナビリティの経済哲学』（岩波書店, 2024年）

これらの著作を通じて、専門性の高いゲーム理論やメカニズムデザインといったテーマを、より多くの読者に分かりやすく解説し、社会の様々な仕組みや問題に対する新たな視点を提供しています。松島氏の研究は、理論経済学の発展に貢献するとともに、現実社会の課題解決に向けた示唆を与え続けています。

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