神国思想

神国思想とは

神国思想とは、自国を神の国（神国）とする思想であり、選民思想の一種です。神政政治が行われた地域では普遍的に見られる思想ですが、特に日本では、以下の二つの意味合いが重要です。

1. 神々の加護の下にある国: 日本の国土やそこに存在するすべてのものが、神々によって創造され、守られているという考え方です。
2. 天照大神の神孫たる天皇が統治する国: 天照大神の子孫である天皇が、日本を統治するという考え方です。

古代においては、1番目の意味合いが主であり、「神国」という言葉自体もあまり使われませんでした。しかし、中世以降、2番目の意味合いも強調されるようになります。

歴史

中世以前

日本における神国思想は、日本神話を源流としています。イザナギとイザナミによる国土創成や、天照大神をはじめとする神々の誕生などが、その基本的な要素です。元々は、農耕儀礼などに結びついた素朴な信仰でしたが、国内の政治的な統一が進み、他国や他民族への意識が芽生えると、自国を他国よりも優れた国とする主張の根拠となりました。その結果、排他的な主張を支える思想として、歴史の表舞台に登場します。

特に、中世の蒙古襲来は、神国思想が強調される契機となりました。国家的な危機が民族意識を覚醒させ、武家と公家の権力交代期にあって、天皇を頂点とする古代貴族体制を維持するためのイデオロギーとして、神国思想が利用されたのです。

この時期には、2番目の意味合い、つまり「天皇が神の子孫である」という考え方が強調されます。例えば、北畠親房の『神皇正統記』には、「大日本は、神が作った国であり、その統治者は神の子孫である」という趣旨の記述が見られます。

近世以後

近世になると、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった天下人が、神として祀られるようになります。織田信長は自らを神とし、豊臣秀吉は豊国大明神、徳川家康は東照大権現として祀られました。これにより、江戸幕府や民衆の間で神国思想が広まりました。

近世中期には、儒教思想と結びつき、水戸学や崎門学といった国粋主義思想が生まれます。これらの学問は、儒教の支配的なイデオロギーに対して、日本の伝統的な価値を重視し、封建体制へのアンチテーゼを主張しました。また、国学の興隆も、神国思想を活性化させました。

幕末になると、神国思想は、皇室を政治権威の源泉として尊ぶ尊王論となり、尊王攘夷運動の精神的な基盤となりました。さらに、倒幕運動のイデオロギー的な支えともなります。水戸学や国学においては、統治者である天皇だけでなく、臣民自体も神々の子孫であるという考え方が示され、神国思想は民俗的な祖先崇拝と結びつきました。明治以降の敬神崇祖や忠孝一致といった家制度国家を支える道徳思想として、生き続けることとなります。

明治維新期には、政治的な独立と国民統合への意識が高まりました。国学や神道がその思想的な背景となり、第二次世界大戦中のファシズム体制下では、天皇家を宗祖とする家族国家論や八紘一宇論がその基礎となりました。大東亜共栄圏建設に向けて、国民精神統合の中核として、神国思想は大きな役割を果たしました。

このように、中世から近現代にかけて、対外的な関係の緊張が高まったり、国家的な危機に直面したときに、神国思想は強調される傾向がありました。

脚注

神国思想は、時として排他的なナショナリズムや軍国主義と結びつくこともありました。

関連項目

日本主義
* エスノセントリズム

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