神奈川税務署員殉職事件

1947年（昭和22年）6月23日、神奈川県川崎市桜本町（現川崎市川崎区桜本）で、密造酒の取締りをきっかけに発生した痛ましい事件です。在日朝鮮人による暴動と税務職員への襲撃により、一人の職員が殉職しました。

事件の背景

終戦直後の日本は、深刻な食糧不足に見舞われていました。正規の酒の生産量が激減する中、「カストリ酒」と呼ばれる粗悪な密造酒が蔓延し始めます。1947年9月には、密造酒の生産量が正規の酒の生産量を大幅に上回るほどでした。

当時、密造は農家の自家消費用にとどまらず、販売目的の大規模なものへと変質していました。特に在日朝鮮人の集落が、密造の温床となっていたのです。

食糧難の時代、米が酒造りに転用されることは、食糧不足をさらに深刻化させる要因となりました。また、粗悪な密造酒は健康被害を引き起こす可能性もあり、税務当局は取締りを強化せざるを得ませんでした。

在日朝鮮人の中には、行政職員を脅迫して米の配給を不正に二重、三重に受け、密造酒を製造・販売する者もおり、社会問題となっていました。税務署が取締りに動くと、組織的な妨害活動が行われることもありました。

川崎市桜本町の在日朝鮮人集落では、公然と密造酒が製造されていました。治安悪化や共産主義革命の危険を感じたGHQの指示もあり、税務当局は一斉捜査に踏み切ります。

事件の概要

1947年 6月23日、税務署員88名、検事2名、警察官206名、占領軍憲兵の応援を得て、一斉取締りが実施されました。取締りは順調に進み、100名以上が検挙され、密造酒15,000リットル、原料、醸造機材などが押収されました。しかし、検挙の際には職員が拉致されそうになったり、税務署が威嚇されるなどの事態も発生しました。

この事件で犠牲となったのは、神奈川税務署間税課長の端山豊蔵でした。端山課長は、取締りの責任者として陣頭指揮を執っていました。その日の事務処理を終え、午後9時に川崎税務署（現川崎南税務署）を出た端山課長は、京浜川崎駅（現京急川崎駅）に向かう途中、数名の暴漢に襲われました。「税務署員か？」と問われた端山課長が肯定すると、暴漢たちは激しい暴行を加えました。端山課長は病院に収容されましたが、3日後に亡くなりました。後に犯人は逮捕され、傷害致死罪で懲役7年の実刑判決が下されました。

事件後、片山内閣は閣議で、この事件を単なる密造事件としてではなく、日本政府の経済緊急対策の成否を左右する重大問題として扱うことを決定しました。今後は、税務署だけでなく、関係官庁が協力して食糧管理法違反なども含めた取締りを行うこととなりました。

同年7月5日には、東京財務局（現東京国税局）と全国財務労働組合の合同慰霊祭として端山課長の葬儀が執り行われ、栗栖赳夫大蔵大臣、石橋湛山前大蔵大臣、池田勇人大蔵事務次官をはじめとする多くの人々が参列しました。

同年12月には、税務署員の安全確保のため、「財務局及び税務署に在勤する政府職員に対する税務特別手当の支給に関する法律」が成立し、危険な業務に従事する職員に税務特別手当が支給されることとなりました。

1951年 6月26日、端山課長の命日に合わせ、東京国税局（東京都千代田区大手町）に殉職間税課長顕彰碑が建立されました。顕彰碑の碑表は池田勇人大蔵大臣、碑誌は坂田泰二東京国税局局長の筆によるものです。

その後

1965年6月には、顕彰碑は殉職地の所轄である川崎南税務署に移されました。東京国税局では、毎年端山課長の命日に慰霊祭が行われています。

この事件は、戦後の混乱期における社会の闇と、職務に殉じた税務職員の尊い犠牲を今に伝えるものです。

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