神奈川都民

神奈川都民

「神奈川都民」とは、神奈川県内に居を構えながら、主に東京都心部へ通勤や通学をしたり、商業施設や娯楽施設などを利用するために頻繁に東京都へ足を運んだりする人々を指す、広く用いられる通称です。この言葉は、特定のライフスタイルを送る人々を指す際に使われ、特に横浜市に住む場合は「横浜都民」、川崎市なら「川崎都民」、相模原市なら「相模原都民」のように細分化されることもあります。

現状と統計

統計データによると、東京都内へ通勤・通学する神奈川県民の数は全体でおよそ100万人に上ります。これは、神奈川県内で働くか学ぶ人々の総数の約2割にあたり、県全体の総人口の約1割に相当する規模です。特に、「神奈川都民」と呼ばれる人々の多くが集中しているのは、人口規模の大きい川崎市（約30万人）と横浜市（約50万人）です。

これらの都市、すなわち横浜市、川崎市、相模原市はいずれも国の政令指定都市ですが、東京都心へのアクセスが良好であることから、典型的なベッドタウンとしての性格を強く持っています。そのため、昼間に市外へ流出する人口が市内に流入する人口を上回り、昼夜間人口比率が100を下回っています。ちなみに、神奈川県内でこの比率が100を超えるのは厚木市のみです。特定の鉄道路線、例えば東急田園都市線や小田急線といった沿線地域では、横浜市中心部へ向かうには乗り換えが必要となる場合が多い一方で、東京の新宿や渋谷といった都心部へのアクセスが容易なため、都内への通勤・通学をより便利にしています。

歴史的背景

神奈川県域は古くから開発が進んだ地域でした。中世には鎌倉に鎌倉幕府が、近世には隣接する江戸に江戸幕府が置かれたことで、幕府のお膝元として開発が進みました。幕末に横浜港が開港し、明治維新を経て東京に明治政府が樹立されたことは、この地域開発をさらに加速させました。

近代的な都市圏の形成に大きな影響を与えたのが、1872年（明治5年）に開業した日本初の鉄道、新橋-横浜間鉄道です。これにより、それまで一日がかりだった移動時間がわずか53分に短縮され、東京と横浜は一体的な都市圏を形成し始めました。当初設置された停車場（品川、川崎、鶴見、神奈川）は、その後の京浜間の都市開発の核となっていきます。

東京都心への通勤・通学というライフスタイルが本格的に広がり始めたのは、関東大震災後の京浜地区の都市化以降です。明治末期から昭和初期にかけて、京急、東急、小田急などの私鉄路線網が整備され、それと連動して沿線での宅地開発が進みました。また、第二次世界大戦末期の東京大空襲で住居を失った人々が、戦後は横浜より西側の東海道本線沿線などに移り住み、そこから都心へ通勤するケースも増加しました。

「神奈川都民」の数が飛躍的に増加したのは、戦後の高度経済成長期に入ってからのことです。この時期、私鉄沿線での大規模な宅地開発が加速度的に進み、鉄道の高速化と相まって、開発エリアは従来の東京湾沿岸部からさらに内陸の郊外へと拡大しました。特に、1960年代以降に多摩田園都市として開発された東急田園都市線沿線（川崎市高津区、宮前区、麻生区、多摩区や横浜市緑区、青葉区、都筑区など）は、「神奈川都民」が多く居住する典型的な地域であり、従来の市街地とは異なる新しい郊外文化が形成されました。

なお、京王相模原線や小田急多摩線沿線にも多くの「神奈川都民」が居住していますが、これらの地域は東京都の南多摩地区に広がる多摩ニュータウンの開発と密接に関連しており、「多摩都民」の一種と見なされることもあります。特に相模原市は、地理的に東京都町田市や八王子市と隣接し、これらの都市との交流が深く、生活圏や経済圏を共有しています。そのため、相模原市民の東京都内への通勤・通学先は、東京都区部と多摩地区がおおよそ半々であり、多摩地区への移動の多くは町田市や八王子市が占めるという特徴があります。

このように、「神奈川都民」という言葉は、東京大都市圏の構造と、その中で神奈川県が果たす重要な役割、そして特定の通勤・生活パターンを持つ人々の存在を端的に示す通称として定着しています。

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