神庭重信

神庭 重信（かんば しげのぶ）氏は、1954年に生まれ、日本の精神科医、精神医学者として長年にわたり活動している。福岡県出身の同氏は、特に精神薬理学、気分障害、神経科学を専門とし、現在は九州大学名誉教授に加え、慶應義塾大学医学部および名古屋市立大学医学部の客員教授を務めている。

その学術的キャリアは、1980年に慶應義塾大学医学部を卒業したことから始まる。1990年には医学博士号を取得した。経歴の中でも特筆すべきは、1982年から1987年にかけての米国メイヨー・クリニックでの研鑽期間である。ここでは精神薬理学フェローおよび精神科レジデントとして臨床と研究に従事し、その後アシスタント・プロフェッサーを務めるなど、海外での高度な精神医学を深く学んだ。帰国後は慶應義塾大学講師を経て、1996年に山梨医科大学精神神経医学講座の教授に就任。さらに2004年からは九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野の教授として、後進の育成と研究指導に尽力した。2019年より九州大学名誉教授となり、現在も精力的に活動を続けている。

神庭氏は、その多大な業績により、外部からは「20世紀の精神薬理学者の一人」あるいは「世界の精神医学のリーダーの一人」として高く評価されている。

国内外の精神医学関連組織において、数多くの要職を歴任していることもその貢献の大きさを物語る。日本精神神経学会では2017年から2021年まで理事長を務め、日本の精神医学界の発展を牽引した。また、厚生労働省の中央労災委員、日本医療研究開発機構（AMED）や科学技術振興機構（JST）でのプログラム評価やアドバイザー、東京都医学総合研究所の理事、内閣府や文部科学省、厚生労働省の専門委員会の委員など、国の科学技術・医療政策にも深く関与してきた。民間や社団法人の分野でも、栗山会飯田病院顧問、日本うつ病センター理事長、ウェルビー社外取締役、福岡行動医学研究所長などを務め、幅広い領域でリーダーシップを発揮している。

国際的な活動も非常に活発である。世界保健機関（WHO）ではICD-11に関連する諮問グループの委員を務め、精神疾患の国際分類の策定に貢献。世界精神医学会（WPA）の名誉会員（2020年〜）であり、強制的医療代替策に関する作業部会や緊急時対応諮問評議会でも活動している。国際双極性障害学会（ISBD）の元副会長、アジア精神医学連合（AFPA）の元会長としても、アジア地域および国際的な精神医学の連携強化に貢献した。アメリカ精神医学会およびメイヨー・クリニック同窓会の生涯会員でもある。

学術情報の発信においては、主要な国際誌の編集者としても重要な役割を果たしている。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌ではEmeritus Editor-in-Chiefを務めたほか、Current Opinion of Psychiatry、International Journal of Bipolar Disordersなど、複数の専門誌で編集委員を務めている。

また、精神医学の知識普及と教育への貢献も大きい。単著、共編著、監修、翻訳を合わせて、膨大な数の書籍を世に送り出している。単著としては『こころと体の対話』『うつ病の論理と臨床』『思索と想い 精神医学の小径で』などがあり、精神医学への深い洞察を示している。共編著としては、『躁うつ病の脳科学』『気分障害の臨床』『精神科診察診断学』『現代精神医学事典』など、精神医学の主要なテーマを網羅する専門書や教科書を多数刊行している。特に、世界的に広く利用される診断基準であるDSM-5の日本語版翻訳においては、共訳者としてその普及に尽力した。これらの著作や翻訳は、日本の精神医学の臨床と研究の発展に不可欠な基盤を提供している。

長年の精神医学界への貢献に対し、2020年には精神保健福祉功労者として厚生労働大臣表彰を受賞している。

神庭重信氏は、国内外での豊富な経験と幅広い視点を持ち、精神薬理学や気分障害研究の最前線で活躍しながら、日本の精神医学の発展、後進の育成、そして国際的な連携強化に多大な貢献を果たしてきた、日本の精神医学界を代表する研究者・臨床家の一人である。

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