神部満之助

神部満之助：日本のダム建設を牽引した異才の経営者

神部満之助（かんべ まんのすけ、1893年1月2日 - 1972年9月10日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の土木技術者、そして経営者です。彼は、名だたる建設会社である間組（現：株式会社安藤・間）の社長として、日本のインフラ整備、特にダム建設において多大な功績を残しました。

生い立ちと初期のキャリア

神奈川県足柄上郡南足柄村（現在の南足柄市）で裕福な家庭に生まれた神部は、岩倉鉄道学校建設科を卒業後、1909年に間組に入社しました。入社後約10年間は、朝鮮半島における道路建設に従事し、技術者としての基礎を築きました。

榑坪発電所工事と松永安左エ門との出会い

1923年、神部は榑坪発電所（後の早川第一発電所）の工事責任者という重責を担うことになります。この工事中、電力業界の重鎮であった松永安左エ門が赤石山脈の電源調査を行う際、神部が案内役を務めました。松永の体調を気遣い、登山者のための小屋を建てたことが、松永に感銘を与え、その小屋は「満之助小屋」と名付けられました。この小屋は後に登山者の宿泊施設として利用されました。

間組の社長として

1931年に間組の東京営業部次長、1934年に取締役に就任し、着実にキャリアを積み重ねた神部は、1945年に3代目社長に就任しました。彼の社長在任中、間組は水豊ダム建設を皮切りに、丸山ダム、佐久間ダム、黒部ダムといった、日本のダム建設史に残る大規模プロジェクトを次々と手掛けました。これらの実績から、間組は「日本一のダム屋」、神部自身は「日本のダム王」と称されるようになりました。

晩年は土木工事のみならず、名古屋城や若松城の復元工事、東京都第二庁舎の建設工事など、建築分野にも注力しました。

東宮御所造営工事の一万円入札事件

1958年、東宮御所造営工事の入札において、間組が破格の1万円で応札したことは、社会に大きな波紋を呼びました。過去に東宮仮御所の建設を担当した経緯から、どうしてもこの工事を請け負いたかった神部の強い意志が背景にありました。しかし、この応札は売名行為やダンピングと批判され、最終的に間組は落札を辞退し、共同企業体による工事となりました。この一件は、神部の皇室への強い敬意を示すエピソードとして広く知られることとなりました。

受章と晩年

1954年に紺綬褒章、1955年には藍綬褒章を受章するなど、その功績は広く認められました。1969年に健康上の理由から会長職に退き、事実上の引退となりました。1972年、心不全のため79歳でその生涯を閉じました。

人物像

神部は、間組が創業時より重んじていた「忠孝一致」を体現するワンマン社長として知られていました。その一方で、型破りな行動から「お祭り神部」とも呼ばれました。工事現場へは作業員姿で赴き、政財界の要人をもてなす際もそのスタイルを崩さず、「神部のモーニング」と称されました。また、起工式などの祝典では笛を演奏したり、即興で俳句を詠んだりと、ユニークな存在感を示しました。

また、神部は皇室を深く敬愛し、皇室関連の工事を数多く手掛けました。明治神宮の復興工事にも尽力し、感謝状を授与されています。

囲碁を愛好し、日本棋院の再建に貢献したことでも知られています。その功績から、日本棋院より五段位を贈られました。

神部満之助は、その卓越した技術力と経営手腕、そして型破りな行動力で、日本の建設業界に大きな足跡を残した人物として、記憶されることでしょう。

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