福井青春物語

『福井青春物語』（ふくいせいしゅんものがたり、英題：For Every Fukui Revolution）は、福井県出身の森川陽一郎が監督・脚本・撮影・編集を手がけた日本のインディーズ映画です。2005年に映画祭で初公開され、同年10月には劇場でのロードショーも果たしました。そして、2007年 11月14日には異例とも言える著作権フリー宣言が行われた作品です。

この映画の最大の特徴は、徹底した「福井へのこだわり」にあります。主要キャストから全スタッフ、そして撮影場所に至るまで、全てが福井県内でまかなわれています。登場人物たちは終始、濃厚な福井弁で会話するため、標準語の字幕が付記されており、地域色を強く打ち出しています。また、福井を代表する名産品が劇中に登場する場面もありますが、一部にはリアリティよりも面白さを追求したような、やや大げさな表現も見受けられます。

製作スタイルもユニークです。本作はいわゆる「B級映画」と呼ばれる、低予算かつ短期間で制作されました。公式情報によると、主要撮影はわずか3日間にわたって行われましたが、実質的には2日間というタイトなスケジュールでした。森川監督自身が舞台挨拶などで語った製作費に関するエピソードは特に有名で、撮影開始直前の所持金である8万円が初期の「製作予算」となり、最終的な「製作費」は30万円であったとされています。タイアップや配給会社の支援を一切受けず、監督個人の資金と情熱によって作り上げられた、真の意味での完全自主制作映画と言えます。

地方で制作された自主映画でありながら、本作は福井県内だけでなく、東京や名古屋といった都市部でも劇場公開が実現しました。これは、監督自らが東京・渋谷の映画館などに直接営業をかけて回り、上映契約を取り付けた努力の結晶でした。劇場公開は2005年から2006年にかけて行われ、地方発のインディーズ作品としては異例の広がりを見せました。

物語は、福井で映画監督になることを夢見る主人公・津田寛治（本人役）が、友人の小野寺昭憲や穴田ユキ久と共に自主映画制作に励む日々を描きます。ある時、主人公の映画に同じ福井出身の有名俳優・山本ヒロシ（山本浩司）が出演してくれることになり、制作は加速します。友人たちの協力も得られますが、主人公はなかなか脚本を書き上げられず、やがて故郷・福井で本当に質の高い映画が作れるのかという疑念に囚われます。そんな折、祖父の不思議な呪文によって主人公はタイムスリップし、自身の人生における大きな分岐点――高校時代、女優を目指して上京する彼女・和歌子（北川和歌子）と共に上京するか、福井に残って友人たちと映画を続けるか――を追体験する夢を見ます。夢の中で主人公は上京した人生を歩みますが、映画監督としての成功は掴めず、山本ヒロシとの接触も叶いません。一方、福井に残った友人たちの映画には山本が出演することになっていました。夢の中で福井に戻った主人公は、自身の企画を友人たちに提案しますが、かつての親友たちとの間に生じた溝を感じます。ここで主人公は目を覚まし、タイムスリップが夢の中の出来事であったことに気づきます。夢を通じて自身の本心に気づいた主人公は、すぐに脚本の執筆に取りかかります。完成した、福井弁を取り入れた脚本は山本ヒロシを驚かせます。物語の終盤、福井駅前での主人公の映画撮影現場には山本ヒロシの姿があり、多くのエキストラが集まる中、有名俳優の演技に歓声があがる様子が描かれ、未来への希望を示唆して幕を閉じます。

キャストには、主人公を演じる津田寛治をはじめ、山本浩司、山田昭二、小野寺昭憲、穴田ユキ久、北川和歌子、川上テルヒサなどが出演しており、多くが本人または本人名を冠した役柄を演じています。スタッフとしては、森川監督が主要な役割を担う他、メイキングドキュメンタリーの監督・編集・製作総指揮を小野寺昭憲が務めるなど、参加者の多才ぶりが伺えます。音楽もROYAL FISH & REBEL MESSENGERS、The Stereo Garden、アノヨロシ、ネズミ警察など複数のアーティストが楽曲を提供しており、エンディングテーマは川上テルヒサ&ネズミ警察による「言の葉」です。

「なんやっちゃおぇー」（福井弁で「なんだよ、おい」）や「言語：福井弁（標準語字幕付）」といったキャッチコピーも、作品の地域性を象徴しています。また、主演の津田寛治による「邦画の明るい未来をよろこぼさぁ!」や森川監督の「故郷を愛するすべての人にこの映画を捧げる」といったメッセージも添えられています。

公開は映画祭での成功を皮切りに、福井県内各地、東京、名古屋、岐阜などで劇場上映されました。のべ動員数も、自主制作映画としては注目に値するものがありました。残念ながら、監督の個人的な問題により、一部予定されていた劇場ロードショーが中止となる経緯もありました。

徹底した地域密着、低予算自主制作、そして最終的な著作権フリー宣言という、一般的な商業映画とは一線を画する様々な要素が組み合わさった『福井青春物語』は、インディーズ映画界における一つの特異な事例として語られる作品です。

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