福嶋一雄

福嶋一雄：戦後野球界を彩った孤高の投手

福嶋一雄（1931年1月6日 - 2020年8月27日）は、日本のアマチュア野球界にその名を刻んだ伝説的な投手である。1940年代後半から1950年代にかけて活躍し、高校時代には夏の甲子園で2連覇を達成、早稲田大学、そして社会人野球でも輝かしい実績を残した。晩年には野球殿堂入りを果たし、その功績は今もなお語り継がれている。

静岡生まれ、小倉育ち

静岡県浜松市に生まれ、福岡県小倉市（現・北九州市）で育った福嶋少年は、幼少期から野球に親しんだ。門司鉄道管理局のグラウンドで行われる、八幡製鉄と門司鉄道管理局の試合に魅せられ、野球への情熱を燃やし始めた。

高校時代：甲子園2連覇と伝説の無失点記録

福岡県立小倉中学校（現・福岡県立小倉高等学校）入学後、弱冠15歳で野球部に入部。投手として頭角を現し始めると、戦後初の全国中等学校優勝野球大会への出場を果たす。その後、監督の指導の下、猛練習に励む。少ない日でも300球、多い日には400球もの投球練習を行い、体幹を鍛え、徹底した投球分析を繰り返した。

1947年、選抜中等学校野球大会で準優勝。続く夏の全国中等学校優勝野球大会では、チームを優勝に導き、自身も東口賞を受賞した。翌1948年には、新制高校最初の夏の甲子園大会で再び優勝を果たし、2連覇の快挙を達成。この年には、5試合連続45イニング無失点という驚異的な記録を樹立した。これは戦前の嶋清一選手と並ぶ記録であった。

1949年、3連覇を目指した夏の甲子園大会では、酷使による右肘の痛みに苦しみながらも戦い抜いた。準々決勝で惜しくも敗れたものの、その粘り強い投球は多くの人の心を掴んだ。甲子園での通算成績は17勝。高校時代の公式戦通算成績は58試合48勝6敗という驚異的な数字を残している。

大学・社会人時代：更なる高みへ

1950年、早稲田大学教育学部に入学。東京六大学野球リーグで4度の優勝を経験し、チームの主力投手として活躍した。1953年春季リーグでは、驚異的な防御率0.00を記録した。

卒業後は八幡製鉄（現・新日鉄住金八幡）に入社。都市対抗野球ではエースとして活躍し、1954年にはチームを優勝に導いた。翌1955年には世界アマチュア野球大会日本代表にも選出された。

引退後：野球界への貢献

1960年に現役を引退した後も、日本野球連盟の要職を歴任。野球界の発展に大きく貢献した。2013年には野球殿堂入りを果たし、数々の賞を受賞。2020年、膵臓癌のため89歳で永眠した。

甲子園の土：忘れられないエピソード

1949年夏の甲子園準々決勝で敗退した際、福嶋は甲子園の土をポケットに入れた。後日、このエピソードは「甲子園の土を最初に持ち帰った球児」という伝説として語り継がれることになる。しかし福嶋自身は、土を持ち帰ることより、甲子園を目指した努力を大切にするべきだと考えていたという。

謙虚な巨人

5試合連続45イニング無失点という偉大な記録についても、福嶋は「チームの記録だ」と謙虚に語った。その言葉からは、自身の功績以上にチームへの貢献を重んじる、彼の揺るぎない姿勢が見て取れる。

参考文献

山中英彦編集『夏の甲子園2連覇50周年記念』（福岡県立小倉高等学校、1997年）
廣﨑靖邦編集『倉高野球100年の軌跡』（小倉高校愛宕クラブ、2010年4月25日）
大羽武『甲子園2連覇 -焼け野原から立ち上がった球児・福嶋一雄-』（朝日クリエ、2012年7月25日）
大羽武『甲子園2連覇 -夏の甲子園大会12勝0敗、5試合連続45イニング無失点、甲子園の土を最初に持ち帰った球児、平成25年野球殿堂入り・福嶋一雄-』（電子書籍、BookWay、2015年5月5日）

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