福田半香

福田半香：渡辺崋山に師事した南画家

福田半香は、江戸時代後期（1804-1864）に活躍した南画家です。遠江国見附宿（現在の静岡県磐田市）に生まれ、幼少期から絵画への才能を示しました。町役人を務める裕福な家庭で育ち、父は国学者として知られる本居宣長に師事していました。半香は、幼い頃から絵を好み、村松以弘に師事して画技を磨きました。

当初は「磐湖」という号を用いていましたが、後に「半香」と改めました。21歳で江戸に出て、匂田台嶺に師事した後、郷里に戻り、独学で写生や花鳥画に励みました。この頃には、一日100羽もの鳥を描いたという逸話も残されています。

天保4年（1833年）、半香は30歳で、田原に滞在中の渡辺崋山を訪ね、師事することになります。崋山は、当時すでに名声を博していた著名な画家であり、半香にとって大きな転機となりました。崋山のもとで研鑽を積み、江戸を中心に活躍する一方、関東地方を巡業して生計を立てていたようです。

崋山との関係は師弟を超えた深いものだったと伝わっています。梁川星巌の斡旋状から、半香が星巌のような著名な文人のつてを頼りに、地方の旧家から依頼を受けて絵を描いていたことが分かります。崋山が田原藩から蟄居を命じられると、半香は生活に困窮する師を支えるため、書画会を企画しました。しかし、これが逆に崋山の切腹を招く原因の一つとなってしまい、半香は生涯にわたってこの出来事を悔やみ続けました。

崋山没後も、半香は創作活動を続け、緻密で繊細な作品を数多く残しました。初期には着色を多用した作品が多く見られますが、晩年になるにつれ水墨画の作品が増えていきます。師である崋山とは異なる、穏やかで繊細な画風が特徴です。崋山は西洋画にも関心を示していましたが、半香はあくまで東洋絵画の伝統を踏襲し、独自の境地を開拓しました。

半香は、崋山の高弟として知られる平井顕斎や椿椿山らと共に「崋山十哲」の一人に数えられています。椿椿山が得意とした花鳥画に劣る自覚から、半香は山水画に傾倒しましたが、花鳥画にも優れた作品を残しています。

代表作として、『浅絳山水図（常葉美術館所蔵）』『秋景山水図（浜松市美術館所蔵）』『冬景山水図（磐田市教育委員会所蔵）』『夏景山水図（静岡県立美術館所蔵）』『山水図屏風（栃木県立美術館所蔵）』などがあります。これらの作品は、半香の繊細な筆致と、穏やかな描写が際立っており、高い評価を受けています。

半香は61歳で亡くなり、渡辺家の菩提寺である小石川富坂善雄寺に葬られました。墓碑銘には、崋山を死に追いやったことを生涯悔やんだ半香の心情が刻まれています。現在も、半香の作品は各地の美術館などに収蔵され、後世にその名を伝えています。彼の作品からは、師への深い敬愛と、自らの画業に対する揺るぎない信念が感じられます。

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