福田源三郎

福田源三郎：福井の歴史を刻んだ郷土史家

福田源三郎(1858-1921)は、明治から大正時代にかけて活躍した郷土史家です。福井市に生まれ育ち、扇子製造業を営みながらも、郷土の歴史人物研究に生涯を捧げました。彼の名は、福井の歴史研究に大きな足跡を残した大著『越前人物志』によって広く知られています。

裕福な家庭環境と学問への志

源三郎は、福井城下(現在の福井市)の扇子や能装束を扱う老舗「高田屋玉雪堂」の資産家の家に生まれました。恵まれた環境の中で育ち、幼少期から学問や諸芸に親しむ機会に恵まれました。23歳の頃には、国学者として著名だった橘曙覧の高弟である河津直入に師事し、国学を深く学びました。さらに、福井藩の儒学者であった伴閑山にも師事し、幅広い知識を習得しました。

郷土研究への情熱と『越前人物志』

扇子製造業を営む傍ら、源三郎は郷土の先人に関する研究に没頭しました。その成果として、『新田義貞伝』『柴田勝家伝』『由利公正伝』などの著作を発表しています。しかし、彼の名を不朽のものとしたのは、何と言っても『越前人物志』です。

『越前人物志』は、古代から1909年までに没した福井ゆかりの歴史上の人物630人以上を収録した大著です。1910年に刊行され、越前における歴史人物研究の礎を築いたと高く評価されています。

資料焼失と完成までの道のり

源三郎は、家督を継いだ明治18年頃より『越前人物志』の刊行を念頭に研究を進めていました。しかし、1902年に発生した福井市の大火で、長年かけて収集した貴重な資料や草稿の大半を失うという大きな困難に見舞われました。それでも、残された資料をもとに執筆を続け、1904年には上京して研究に励みました。

完成のきっかけは、1909年に皇太子であった大正天皇の北陸行啓でした。福井出身の東宮侍医である橋本綱常が福井の人物伝を献上することを計画し、同郷の医学博士である土肥慶蔵の推薦、実業家である山本条太郎の資金援助を得て、源三郎が『越前人物志』を完成させたのです。

福井の歴史研究への貢献

『越前人物志』は、単なる人物伝の集成にとどまらず、福井の歴史研究において画期的な成果をもたらしました。それまで散逸していた歴史情報を体系的に整理し、後の研究者にとって貴重な資料となりました。源三郎の地道な研究と献身的な努力は、福井の歴史研究の発展に大きく貢献し、現在もその功績は高く評価されています。彼の生涯は、郷土愛と学問への情熱を体現した、まさに歴史研究者としての模範と言えるでしょう。

没後

源三郎は、大正10年(1921年)、65歳で生涯を閉じました。『越前人物志』という不朽の遺産を残し、福井の歴史に大きな足跡を残した郷土史家として、現在もその名が語り継がれています。

もう一度検索