禹範坤

禹範坤による大量殺人事件

禹範坤（ウ・ボムゴン、1955年2月24日 - 1982年4月27日）は、1982年に韓国で発生した凄惨な大量殺人事件の犯人として知られる人物です。彼は現職の警察官でありながら、同年4月26日から翌27日にかけて、慶尚南道宜寧郡宮柳面とその周辺地域で住民を無差別に襲撃。この犯行により、公式には57人が死亡し、35人が重軽傷を負うという、韓国犯罪史上でも稀に見る被害をもたらしました。

人物像と背景

禹範坤は慶尚南道釜山市出身で、四人兄弟の三男として生まれました。父親も警察官であり、幼少期は特に目立った問題なく過ごしていたようです。

彼の人生に影が差し始めるのは高校時代です。1972年、父親が大腸がんと診断され、半年間の入院生活を送りました。医療費と自身の学費を捻出するため自宅を売却しましたが、間もなく父親は余命半年と宣告され、1974年1月末に亡くなります。父の死後、禹は自宅の窓ガラスを割ったり、手首を切るなどの自傷行為に及んだものの、いずれも未遂に終わっています。高校の成績も芳しくないまま、1975年2月に卒業しました。

卒業後、釜山実業専門学校に進学しますが、学内でガラスを割るなどの問題を起こし、懲戒処分を受けて1976年2月に中退。その後、韓国海兵隊に志願入隊しましたが、1978年に兵長の階級で除隊しました。1979年5月には警察学校に入学。1980年6月に卒業し、同年12月、2度目の受験で警察官採用試験に合格します。最初は釜山の交番に配属されました。

1981年4月にはソウル市の青瓦台警備隊に栄転するなど順調に見えましたが、同年12月13日に暴力事件を起こし、同月26日には停職処分を受けます。そして30日には慶尚南道宜寧郡へ事実上の左遷となりました。1982年3月3日には、事件現場となる鴨谷里に定住を開始します。この頃、2歳年下の女性と交際を始め、3月初めからは同棲生活を送っていました。

事件の発生と推移

事件は1982年4月26日に発生しました。午後4時頃、禹は酒に酔って帰宅した際、同棲していた女性が彼の胸に止まったハエを払おうと叩いたことがきっかけで口論となり、激昂しました。そのまま自宅を飛び出し、勤務先である宜寧警察署宮柳支署（現在の宮柳治安センター）の武器庫へと向かいます。そこで多量のウイスキーを飲み、泥酔状態に陥りました。

午後7時30分、彼は自宅に戻り、家具を破壊したり、女性を殴打して負傷させました。女性は負傷したものの、命に別状はありませんでした。そして午後9時25分、再び武器庫に戻ると、M2カービン銃2丁、実弾144発から180発（後に172発を乱射）、手榴弾8発を持ち出しました。

支署を出た禹は、まず近くの路上を歩いていた男性（26歳）を射殺します。続いて市場で手榴弾を投げ、通行人3人を爆殺しました。午後9時45分には郵便局に押し入り、電話交換手と郵便配達員の合計3人を射殺。これにより外部への連絡手段は断絶されてしまいますが、幸いにも局内に隠れていた交換手の一人が、禹が去ってから約1時間後の午後10時40分頃、ようやく郡警察署への通報に成功しました。

一方、禹は同棲女性が住む鴨谷里へ向かい、午後10時頃には2人を殺害。その後、女性の実家に押し入り、一家5人を射殺しました。さらに雲渓里に向かい、カービン銃を乱射して合計7人の住民を殺害（この時点で合計19人）。彼の凶行は止まらず、さらに、灯りの点いている民家を見つけては、手当たり次第に住民に対してカービン銃を乱射し始め、新たに18人を殺害しました。また、閉店前の市場など人の集まる場所に手榴弾を投げ込み、爆発に驚き外へ飛び出してきた人々にもカービン銃を乱射し、次々と命を奪いました。午後10時半頃には、近くに偶然居合わせた18歳の高校生にソフトドリンクを買いに行かせた後、彼も殺害。その後、現場近くで商店を営む鄭一家宅に上がり込み、13歳と10歳の子供を含む家族4人を殺害しました。

最初の射殺事件発生から2時間以上が経過し、通報から1時間以上経った午後11時50分頃になってようやく郡警察署から出動した武装警官隊が宮柳面に到着しました。しかし、この時点で禹は既に4つの集落で47人を殺害していました。彼は翌日4月27日の午前2時頃まで周辺地域でカービン銃の乱射を続け、最終的に5つの集落で57人を殺害、35人に重軽傷を負わせたのです。

武装警官隊は周辺を徹底的に捜索し、追い詰められた禹は山中の民家に逃げ込み、そこに住む一家3人を人質に取って立て籠もりました。しかし、警官隊に包囲されると、翌午前3時45分頃、手榴弾を用いて自爆。この自爆に人質となっていた一家3人も巻き込まれ、犠牲となりました。彼が最期に立て籠もった村では、最終的に24名もの犠牲者が出たのです。

事件の影響

現職警察官による凄惨な大量殺害に加え、事件発生後の警察の初動対応の遅れが被害を拡大させたとして、国民からの激しい非難が巻き起こりました。その責任は当時の劉彰順内閣だけでなく、政権の座に就いたばかりの全斗煥大統領にまで波及する可能性がありました。これにより、当時の徐廷和内務部長官が事件発生直後に辞任。後任となった盧泰愚は、この人事が後に政界での足がかりを築く第一歩となりました。

また、事件発生時に宜寧警察署長が職務を離れ遊興に興じていたことが発覚し、職務怠慢で起訴されました。しかし、最終的に彼は無罪判決を受けています。

この事件は、スプリー・キラーによる犯行の事例として、あるいは韓国犯罪史上最悪の大量殺人事件として記憶されています。その被害規模と、公務員である警察官が犯したという性質から、当時の韓国社会に大きな衝撃と波紋を残しました。

紋を残し、現在も語り継がれる事件です。

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