秀和幡ヶ谷レジデンス

秀和幡ヶ谷レジデンス：異質なルールの終焉と住民たちの闘い

秀和幡ヶ谷レジデンスは、東京都渋谷区に所在する、秀和株式会社が手掛けた「秀和レジデンス」シリーズの一角を担う集合住宅です。1974年11月に竣工し、総戸数は298戸を数えます。かつては、その特異な管理体制から「渋谷の北朝鮮」という異名を持ち、クソ物件オブザイヤーにも2020年と2021年に連続で入賞するという、ある種の問題を抱えたマンションでした。

異質なルールの数々

その異名の所以は、かつて20年以上にわたり管理組合の理事が独裁的な支配を行使し、多くの住民にとって理解しがたいルールが存在していたことに起因します。以下に、その代表的な例を挙げます。

入居制限: 外国人や同性愛カップル、音楽関係者の入居を認めない。
外部業者への制限: 土日祝日と平日午後5時以降は、ヘルパーやベビーシッター、さらには救急隊員の出入りも禁止。
行動制限: 廊下での立ち話や携帯電話の使用を禁止。
生活制限: 洗濯物をベランダに干すことを禁止。
サービス制限: Uber Eatsの利用を禁止。
宿泊制限: 居住者以外の宿泊に際し、転入出とみなし10,000円を徴収。
設備制限: 浴室給湯器はバランス釜に限定。
監視体制: 敷地内に54台もの防犯カメラを設置し、住民を監視。

これらのルールは、管理規約に明記されているわけではなく、「書面による理事会の同意を得ること」という条項を拡大解釈し、規約や総会決議を経ずに理事会が一方的に追加していったものでした。住民からの反発もあったものの、「8割の住民が賛同している」として、理事会は一切取り合わず、反対運動は徹底的に抑圧されました。

このような状況下ではありましたが、都心の一等地という立地条件にもかかわらず、物件価格は周辺相場よりも数百万円ほど安く設定されていたという側面もありました。

管理組合との闘争、そして変革へ

2018年、管理組合が管理費を値上げしたことをきっかけに、住民有志による反対運動が本格化します。総会での質問に対し、管理費値上げの理由が明確にされず、質問者への人格攻撃が行われるなど、旧理事会の強権的な姿勢は変わりませんでした。監視の目を避けるため、住民たちはマンションから離れた喫茶店で月に1〜2回、秘密裏に会合を重ねました。

2021年11月6日の総会において、4度にわたる集計の末、賛同者の票により旧理事が解任され、新たに8名の理事が選任されました。これにより、長年にわたって住民を苦しめてきた数々のルールは撤廃されることとなりました。しかし、前理事長は票の集計に不正があると主張し、新体制への引き継ぎを拒否。新理事の一人が原告となり、旧理事に対し「職務執行停止仮処分」を申し立てました。さらに、「理事の地位不存在確認請求訴訟」を東京地方裁判所に提起し、最終的に原告側の完全勝訴となる判決が下されました。

この一連の出来事は、一見閉鎖的にも見えるマンションというコミュニティにおいて、住民たちが団結し、長年の不正を打破した画期的な事例と言えるでしょう。

参考文献

栗田シメイ『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』毎日新聞出版、2025年3月5日。ISBN 978-4620328263。

関連項目

秀和
* クソ物件オブザイヤー

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