私がやりました

映画『私がやりました』（Mon crime）

2023年にフランスで製作された、フランソワ・オゾン監督によるクライム・コメディ映画です。1934年の同名戯曲（ジョルジュ・ベールとルイ・ベルヌイユ作）を下敷きに、独自の視点とユーモアを加えて現代に蘇らせた作品として注目を集めました。フランス国内では100万人を超える観客を動員する大ヒットを記録し、日本でも2023年11月3日に公開されました。

物語は、1930年代の華やかでありながらも厳しいパリが舞台。未来の見えない貧乏暮らしを送る新人女優マドレーヌは、ルームシェアする親友で、まだ仕事に恵まれない駆け出しの弁護士ポーリーヌと共に、滞納した家賃の支払いに頭を悩ませています。ある日、マドレーヌは仕事のオーディションと称して有名な映画プロデューサー、モンフェランの邸宅に呼び出されますが、そこで端役と引き換えに愛人となることを強要され、激しく抵抗して逃げ出します。

マドレーヌには、大手企業社長の息子でありながら働く意志がなく、彼女との関係を続けるために持参金付きの女性との結婚を画策する軽薄な恋人アンドレがいました。度重なる困難に絶望したマドレーヌが自殺を考えた矢先、意外な知らせが舞い込みます。件のプロデューサー、モンフェランが自宅で射殺体となって発見されたというのです。

事件を担当するブラン警部がマドレーヌを訪ね、彼女の拳銃が現場で使用されたものと疑われ、第一容疑者とされてしまいます。予審判事ラビュセによる尋問を受けることになったマドレーヌは、友人ポーリーヌを弁護士に立てます。二人はこの状況を逆手に取る大胆な計画を立てます。それは、無罪を証明するのではなく、あえて犯行を認め、正当防衛を主張することで世間の同情と注目を集めるというものでした。

裁判の場で、ポーリーヌが練り上げた台本に基づき、マドレーヌは涙ながらに、そして情熱的に演説します。その内容は、当時の社会における女性への抑圧と不当な扱いに焦点を当て、自己防衛のための行為であったと訴えるものでした。その巧みな弁舌と感動的なパフォーマンスは、裁判官のみならず傍聴していた大衆の心を掴み、マドレーヌは見事、正当防衛による無罪を勝ち取ります。

一夜にしてマドレーヌは時の人となり、スターダムを駆け上がります。弁護士としての才能を開花させたポーリーヌにも、弁護依頼が殺到するようになります。豪邸に引っ越し、成功を謳歌する二人のもとに、意外な人物が現れます。それは、無声映画時代に活躍した往年の大女優オデットでした。オデットはモンフェラン殺害の真犯人は自分であると告白し、その証拠として現場から持ち去ったモンフェランの財布を見せます。そして、この事実を公にしない代わりに、マドレーヌに高額な口止め料を要求します。

新たな問題に直面したマドレーヌは、モンフェランの死によって多大な利益を得た資産家パルマレードに接近します。資金援助を取り付けるため、あの手この手で誘惑を試みますが、パルマレードは予想外に誠実な人物で、マドレーヌの魅力に屈することなく、しかし彼女に協力することを約束します。パルマレードの支援により、恋人アンドレの父親が経営する会社の業績が回復し、オデットへの口止め料も肩代わりしてもらえることになり、さらにはアンドレとの結婚の許可まで得られるという、まさに棚から牡丹餅のような展開となります。

最終的に、マドレーヌとオデットは、モンフェラン殺害事件を題材にした舞台で姉妹役として共演します。劇中、プロデューサー役に襲われるマドレーヌをオデットが射殺するという、現実の事件をなぞるかのような筋書きは観客を熱狂させ、ポーリーヌを含む満席の客席から惜しみない拍手喝采を浴びます。物語は、事件から一年後、新聞に「モンフェラン殺害事件に新証言」という見出しの記事が掲載される場面で幕を閉じ、事件の完全な終結ではないことを示唆します。

本作の主要キャストには、マドレーヌ役にナディア・テレスキウィッツ、ポーリーヌ役にレベッカ・マルデールが起用され、往年の大女優オデットをイザベル・ユペールが演じ、物語に深みを与えています。監督・脚本はフランソワ・オゾン自身が手掛け、1930年代の華麗な衣装はパスカリーヌ・シャヴァンヌが担当しました。

批評家からの評価も高く、フランス国内のメディア平均で5点満点中4点という高評価を得ています。映画批評サイトRotten Tomatoesでは、批評家の98%が高評価を与え、Metacriticでも概ね好意的なレビューが多く集まりました。多くの評論家が、その魅惑的な華やかさ、ドタバタ喜劇的な要素、そして主演女優たちの演技を高く評価しており、「ドタバタ喜劇のファンやフランス好きを魅了するだろう」と評されています。

本作は、ミステリーとしての側面を持ちながらも、女性の権利、社会における偽善、そしてメディアや世論の力といったテーマを軽妙なタッチで描き出す、現代にも通じる風刺に満ちた作品と言えるでしょう。

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