秋 (シューベルト)

秋 (Herbst), D945

『秋』（ドイツ語原題：Herbst）は、オーストリアを代表する作曲家、フランツ・シューベルトがその生涯の最後に近い時期に創作した珠玉の歌曲の一つです。作品番号はD945が付されており、ルートヴィヒ・レルシュタープによって書かれた詩に音楽が付けられています。

この作品は、シューベルトが亡くなるわずか数ヶ月前の1828年4月に生み出されました。この時期には、現在歌曲集『白鳥の歌』に収められているレルシュタープの詩による一連の歌曲群が作曲されており、『秋』もそれらと同時期に生まれました。ベーレンライターが出版する原典版においては、『白鳥の歌』の本巻ではなく、その補遺（追加された部分）の中に位置づけられています。

レルシュタープの筆による詩は、秋の季節がもたらす深い寂しさや虚無感を基調としながら、過ぎ去ってしまった春や夏といった輝かしい時期、そして人生における盛りの時を惜しむ切ない思いや悲しみに満ちています。枯れてゆく野、葉を落とした森、暗く曇った空、そして見えなくなった星といった秋の情景描写が、人生の希望が失われていく様や、かつて愛する人と過ごした日々、愛そのものが終わりを迎える悲しみを象徴的に描いています。

シューベルトがこの詩に付けた音楽は、ホ短調、12/8拍子という形式を取っています。特筆すべきは、ピアノパートにおける右手の絶え間ない細かな動き（トレモロ）です。これは、秋の冷たい風が木々の葉をざわめかせ、吹き抜けていく様子を見事に音で表現しており、楽曲全体に緊張感と叙情性を与えています。左手のパートは、歌唱を担当する声部と豊かで緊密な対話を織りなしており、単なる伴奏にとどまらない重要な役割を果たしています。

高名なバリトン歌手であり、シューベルト歌曲の解釈者としても知られるディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウは、この『秋』について、その音楽的な構造が「純粋に対位法的」であると評価しています。これは、複数の独立した旋律線が同時に響き合いながら音楽を構成していく対位法の手法が、この曲において効果的に用いられていることを示唆しています。シューベルトが得意とした、聴く者の心を揺さぶるような巧みな転調も随所に現れ、曲全体の寂寥感を一層深め、この作品を真に美しい傑作へと昇華させています。

『秋』は、シューベルトが最晩年に到達した芸術性の高さを証明する歌曲の一つであり、秋という季節が持つ物悲しさと、人生のはかなさや過去への追想が繊細に描かれた、聴く者に深い感銘を与える作品として、今日でも多くの人々に愛されています。

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