秋葉山 (静岡県)

秋葉山は、静岡県浜松市天竜区春野町領家に位置する、標高866mの山です。赤石山脈の南端を占め、その山容は古くから人々の信仰を集めてきました。

秋葉山の歴史と信仰

山頂近くには、火防（ひぶせ）の神として知られる秋葉大権現を祀る秋葉山本宮秋葉神社があります。この神社は、秋葉山の俗称としても使われています。明治時代以前は、秋葉大権現として秋葉社と秋葉寺の両方が存在する両部神道の形態をとっていました。しかし、明治初めの神仏分離・廃仏毀釈により、秋葉山は神社と寺院に分離されることとなりました。現在、秋葉神社上社は秋葉山の山頂に、曹洞宗の秋葉寺は中腹の杉平にそれぞれ位置しています。

この秋葉山は、東京都千代田区・台東区にある秋葉原の地名の由来としても広く知られています。

秋葉山の変遷

戦国時代まで、秋葉山は真言宗との関係が深かったのですが、徳川家康と関係のあった可睡斎の禅僧、茂林光幡が、戦乱で荒廃していた秋葉寺を曹洞宗の別当寺としました。以降、徳川幕府の庇護のもとで発展を遂げました。この頃、秋葉山には禰宜・僧侶（曹洞宗）・修験（当山派）の三者が奉仕し、別当は僧侶が務めていました。山頂には、本社と観音堂を中心に本坊や多宝塔など多くの建物が建ち並び、修験の寺院も十七坊（時代によって増減あり、三十六坊の時期も）あったと伝えられています。

徳川綱吉の時代になると、秋葉大権現は神道、仏教、修験道が混淆した「火防の神」として全国的な信仰を集めるようになり、その名は広く知られるようになりました。特に、度重なる大火に見舞われた江戸では多くの秋葉講が結成され、参詣者が後を絶ちませんでした。参詣の賑わいは伊勢参りにも匹敵したと言われ、各地から秋葉大権現に通じる道は「秋葉路」や「秋葉街道」と呼ばれ、信仰の証として多くの常夜灯（秋葉灯篭）が建てられました。平成4年度には、その歴史的価値が認められ、手づくり郷土賞（ふるさとの色と光）を受賞しています。

また、全国各地には神仏混淆の分社として、多くの秋葉大権現や秋葉社が設けられました。龍燈（龍頭）と呼ばれる祠を兼ねた特殊な常夜燈は、各町内や講中の信仰の場となりました。

しかし、明治維新を迎えると、1868年（明治元年）の神仏分離令と1872年（明治5年）の修験宗廃止令によって、秋葉山も大きな変化を迫られます。神仏分離は容易に進まず、秋葉権現が神か仏かという神学論争に加え、山内の修験派と僧派の対立もありました。最終的に、教部省は秋葉権現を三尺坊とは異なる鎮守と判断し、祭神名を火之迦具土大神としました。これにより、秋葉山は神道の秋葉大権現と仏教の秋葉寺に分離され、秋葉大権現は秋葉神社と改称されました。翌1873年（明治6年）、秋葉寺は無住無檀という理由で廃寺となります。秋葉寺の廃寺に伴い、三尺坊は萬松山可睡斎（静岡県袋井市）に遷座し、宝物什物も移管されました。全国各地の分社も、それぞれの土地の事情に従い、神社または寺として独立しました。そして、明治6年には県社に列格しました。

第二次世界大戦中の1943年（昭和18年）、山頂の上社は山火事により山門を除く全ての建物を焼失しました。戦中戦後の混乱期で再建は容易ではなく、山麓に下社を造営して祭祀を継続することとなりました。

霊山としての秋葉山

秋葉神社は、秋葉山を神体山として仰ぐ信仰を根源としており、社では「神山」と呼んでいます。中世以降は、修験道の霊場としても発展しました。秋葉権現の眷属は天狗とされ、秋葉山は天狗信仰の山でもあります。山麓の春野町は「天狗の里」とも呼ばれています。地元の伝説のほか、江戸時代の天宮神社の神職・中村乗高が著した『事実証談』などには、秋葉山にまつわる数多くの霊験譚が記されています。怪火（老人火、天狗の火）、天狗囃子、山姥や山男、浪小僧などの伝説が語り継がれています。

関連情報

萬松山可睡斎: 秋葉山と関係の深い寺院。
三遠信: 三河、遠江、信濃の地域。
遠江国: かつての日本の地方行政区分。
秋葉原: 秋葉山の名に由来する東京の地名。


秋葉山は、豊かな自然と歴史、そして信仰が織りなす魅力的な場所です。その歴史をたどることで、日本の文化と信仰の変遷を深く理解することができます。

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