秘曲 笑傲江湖

『秘曲 笑傲江湖』（ひきょく しょうごうこうこ）は、中国の著名な小説家、金庸による武侠小説です。1967年から1969年にかけて『明報』で連載され、その複雑な人間関係と武術の世界観が多くの読者を魅了しました。

あらすじ

物語は、正派である華山派の弟子、令狐冲（れいこ ちゅう）を中心に展開します。彼は、お人好しで陽気な性格の持ち主であり、その人柄から多くの人に慕われます。しかし、秘伝書を巡る陰謀や、正派と魔教の対立、魔教内部のクーデターなど、数々の事件に巻き込まれていきます。

タイトルにある「笑傲江湖」は、正邪の立場を超えて友情を育んだ二人の男が奏でる簫と琴の合奏曲であり、「江湖のしがらみを笑い飛ばす」という意味が込められています。このテーマは、主人公の令狐冲とヒロインの任盈盈（じん えいえい）の恋愛を通して象徴的に描かれます。

物語の舞台となる時代は、作品中の人々の習俗や官職名から、明代であると推測されています。また、作中に登場する魔教・日月神教は、連載当初は「朝陽神教」という名称でした。

主要な登場人物

令狐冲（れいこ ちゅう）: 華山派の一番弟子で、物語の主人公。お人好しで大酒飲み。
奇縁によって「独孤九剣」を習得し、武林屈指の剣士となる。
内功を失うも、「吸星大法」や「易筋経」を会得し、内功を取り戻す。
任盈盈（じん えいえい）: 日月神教の要人で、任我行の一人娘。令狐冲を深く愛する。
毒消しを持つことから、江湖で畏敬の念を集める。
プライドが高く、当初は令狐冲に想いを打ち明けられない。
任我行（じん がこう）: 日月神教の前教主で、任盈盈の父。「吸星大法」の使い手。
東方不敗の姦計によって幽閉されるが、後に令狐冲によって解放される。
復讐に燃え、東方不敗と対決する。
岳不群（がく ふぐん）: 華山派の総帥で、令狐冲の師匠。「君子剣」の異名を持つが、実は野心家。
華山派の秘伝「紫霞功」を会得している。
弟子の令狐冲を冷遇し、破門する。
寧中則（ねい ちゅうそく）: 岳不群の妻で、令狐冲の理解者。
優れた剣術の使い手で、令狐冲を実の息子のように愛する。
岳不群の不実さに絶望し、自害する。
岳霊珊（がく れいさん）: 岳不群と寧中則の娘。令狐冲を慕っていたが、後に林平之と恋に落ちる。
令狐冲を振った後、林平之と結婚するが、林平之に殺害される。
林平之（りん へいし）: 福威鏢局の跡取りで、復讐のために華山派に入門。
両親の仇である青城派に対抗するため、「辟邪剣譜」を習得する。
復讐を果たした後、狂気に走る。
東方不敗（とうほう ふはい）: 日月神教の教主で、武林最強の武術家。「葵花宝典」の使い手。
圧倒的な武力で、令狐冲らを苦しめる。
曲洋（きょく よう）: 日月神教の人物で、音楽家。
衡山派の劉正風と友情を結び、「笑傲江湖」の楽譜を令狐冲に託す。
左冷禅（さ れいぜん）: 嵩山派の総帥で、五岳剣派の併合を企む野心家。
任我行に「面の皮が厚い」と言わしめるほどの厚かましさを持つ。
定閒師太（ていかんしたい）: 恒山派の総帥。左冷禅の五派併合に反対し、暗殺される。
死の間際、令狐冲を恒山派の総帥に任じる。
儀琳（ぎ りん）: 恒山派の尼僧で、心優しい美少女。令狐冲を慕う。
莫大先生（ばく だいせんせい）: 衡山派の総帥。「瀟湘夜雨」の異名を持つ。
風清揚（ふう せいよう）: 華山派剣宗の長老。令狐冲に「独孤九剣」を授ける。
田伯光（でん はくこう）: 「万里独行」の異名を持つ色魔。後に令狐冲と友情を深める。
余滄海（よ そうかい）: 青城派の総帥。「辟邪剣譜」を狙い、林家を殺戮する。

主な流派

華山派: 主人公令狐冲が所属する正派。
剣術を重視する一派と、気功を重視する一派に分かれて内紛を起こした。
嵩山派: 左冷禅が率いる五岳剣派の一つ。
他の門派の事情にも口を出し、無道な行為が多い。
恒山派: 尼僧集団。
集団で繰り出される技は独孤九剣に匹敵する。令狐冲が総帥に就任すると男も入門する。
青城派: 四川の正派。余滄海が率いる。
他門派を併合して頂点に立とうと企む。
少林寺: 江湖の重鎮。左冷禅や日月神教の野望を阻止するため奔走する。
武当派: 太極拳、太極剣を伝える。華山派を追放された令狐冲に協力的。
日月神教: 邪教。五岳剣派や少林寺を打ち破り、江湖の支配を企む。
五仙教: 邪派。毒蛇や毒虫を操り、毒物を用いた技を振るう。

主な技

辟邪剣譜: 林平之一家に伝わる究極の剣法。習得には代償を伴う。
「速さ」を主眼とし、「葵花宝典」の一部が記されているとされる。
葵花宝典: 宦官が編み出した禁断の武功書。習得には去勢が必要。
独孤九剣: 独孤求敗が編み出した無敵の剣法。相手の技に臨機応変に対応する。
攻撃こそ最大の防御となる、型のない剣法。
吸星大法: 任我行の絶技で、相手の内力を吸収する。副作用が強い。
紫霞功: 華山派気宗の秘伝技。内力を倍増させ、防御にも優れる。
寒氷真気: 左冷禅の技。強力な冷気を帯びた内力で相手の内力を封じる。
易筋経: 少林派に伝わる奥義。内功の極意であり、習得すれば凡技も絶技となる。

書誌情報

単行本と文庫本が徳間書店から出版されています。また、映像化作品として、映画やドラマが多数制作されています。

映像化作品

数多くの映画やドラマが制作されており、特に香港映画『スウォーズマン』シリーズは、日本でも人気を博しました。

ゲーム

『笑傲江湖』を題材としたゲームもいくつか発売されています。

コミック

李志清によってコミカライズされています。

『秘曲 笑傲江湖』は、金庸の代表作の一つとして、今なお多くの読者に愛されています。武侠小説としての面白さはもちろん、人間の欲望や葛藤、友情や愛情が複雑に描かれた、読み応えのある作品です。

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