税所篤

税所篤：薩摩閥の重鎮から近代日本の行政官へ

税所篤(さいしょ あつし、1827-1910)は、激動の幕末から明治維新、そして近代日本の発展に貢献した稀代の官僚です。薩摩藩士として生まれ、西郷隆盛、大久保利通らと親交を深め、その生涯は日本の歴史と深く関わっています。

藩政改革への貢献と西郷隆盛との深い絆

薩摩藩士の家に生まれた篤は、幼少期は貧しかったものの、兄の助力もあり、藩主・島津斉彬に見出されます。勘定所郡方、三島方蔵役などを歴任し、改革派集団「精忠組」の中心メンバーとして、西郷隆盛、大久保利通らと共に藩政改革に尽力しました。

西郷隆盛の入水事件では、献身的に看病を行い、奄美大島での流罪生活も支援。大久保利通の才能を島津久光に認めさせるため、策略を用いてその存在をアピールするなど、人脈を駆使した手腕も見せます。こうした活動は、のちの薩摩藩、そして明治政府において重要な役割を果たすことになります。

幕末の動乱と新政府への貢献

禁門の変では薩摩軍参謀として活躍、負傷しながらも武功を挙げます。第一次長州征伐では西郷、吉井友実と共に長州藩の説得にあたり、戊辰戦争では鳥羽・伏見の戦いで、機転を利かせた藩金の保護に成功。新政府では内国事務権判事、河内・兵庫・堺・奈良などの県令・知事を歴任しました。

堺県令時代は、教育・港湾整備・産業振興など、先進的な行政を行い、県民の生活向上に貢献。その手腕は他県の模範とされました。明治六年政変の際には西郷隆盛と面会し、その様子を大久保に報告するなど、常に政治情勢を注視し、政府側を支持する立場を貫きました。

奈良公園の拡張と文化行政への尽力

奈良県が堺県に編入された後、大阪府からの分離独立運動を支援し、明治20年（1887年）の奈良県再成立に貢献します。奈良県知事として、奈良公園の拡張を推進、今日の奈良公園の基礎を築きました。さらに、橿原神宮の造営、吉野山への桜植樹、興福寺の再興、十津川大水害被災民の北海道移住支援など、文化保護と地域振興にも尽力しました。

税所は古美術にも造詣が深く、正倉院御物の整理にも携わりました。富岡鉄斎を大鳥大社の宮司に推薦したり、フェノロサを招いて講演会を開催するなど、文化行政にも積極的に取り組みました。

晩年と評価

宮中顧問官、枢密顧問官を歴任し、明治20年には維新の功績により子爵を授けられました。晩年は古美術の収集に没頭したと伝えられています。

税所篤は、西郷隆盛、大久保利通らと共に薩南の三傑と称されるほど、幕末から明治にかけて日本の歴史を動かした重要な人物です。その生涯は、時代の変革の中で常に中心的な役割を果たし、近代日本の礎を築いたことを示しています。彼の功績は、政治・行政のみならず、文化・教育・地域振興など、多岐に渡り、今日の日本社会に大きな影響を与え続けています。彼の剛直な性格と、時代の変化に対応する柔軟性、そして深い人脈と優れた政治手腕は、今もなお学ぶべき点が多く残されています。

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