種姫

種姫（たねひめ）

種姫は、江戸時代後期の女性で、紀州藩主徳川治宝の正室として知られています。明和2年7月5日（1765年8月21日）に生まれ、寛政6年1月8日（1794年2月7日）に30歳でその生涯を閉じました。彼女は、田安徳川家当主徳川宗武の七女であり、将軍徳川家治の養女という高貴な身分でした。

生涯

種姫は、江戸の田安屋敷で誕生しました。生母は香詮院殿（山村氏）です。明和8年（1771年）に父・宗武が亡くなった後、安永4年（1775年）11月、11歳の時に第10代将軍徳川家治の養女となり、江戸城大奥に入りました。当初、将軍世子である徳川家基の正室候補として考えられていた可能性も指摘されていますが、実現には至りませんでした。

天明2年（1782年）2月7日、18歳で紀州藩主嗣子の岩千代（後の徳川治宝）との縁組が決定しました。この時、岩千代は種姫より6歳年下の12歳で、翌月に元服しています。天明3年（1783年）4月15日には結納が交わされました。将軍家と紀州藩という名門同士の縁組は、当時大きな話題となりました。

天明5年（1785年）には養父である将軍家治が死去し、家治の養嗣子で義弟にあたる徳川家斉が第11代将軍に就任しました。さらに、天明7年（1787年）には実兄である松平定信が老中に就任するなど、種姫の周囲は政治的な動きが活発化しました。

天明7年（1787年）11月27日、23歳になった種姫は、紀州藩赤坂上屋敷の御守殿に入輿し、17歳の治宝と結婚しました。この婚礼は、将軍家姫君の入輿として、第8代将軍徳川吉宗の養女である利根姫以来、実に50年ぶりという大変華やかなものでした。婚礼行列の様子は、狩野養和によって描かれ、現在も東京国立博物館に所蔵されています。しかし、この豪華な婚礼の裏では、紀州藩の財政状況は逼迫しており、藩士たちは6年間の半知（俸禄の半減）を強いられ、生活に困窮しました。

さらに、種姫に付き従って大奥から来た女中たちは、紀州藩邸での生活に不満を漏らし、藩士たちの反感を買ったとされています。このように、種姫の入輿は、藩にとっては大きな負担となり、藩内の対立を招く要因ともなりました。

寛政6年（1794年）1月、種姫は30歳という若さで亡くなりました。法名は貞恭院。紀州家の願いにより、和歌山の長保寺に埋葬されることになり、同年5月5日に江戸を出棺、5月27日に和歌山に到着し、同日埋葬されました。

種姫の生涯は、将軍家と紀州藩という二つの名門の間で翻弄されながらも、その中で懸命に生きた女性の姿を今に伝えています。

脚注

紀州藩の財政状況については、婚礼の費用が藩の負担となり、その結果、藩士たちの俸禄が減額されたという記録が残っています。
種姫に付き従ってきた女中たちの不満は、大奥の習慣と紀州藩邸の習慣の違いから生じたものと考えられています。

参考文献

「徳川幕府家譜」『徳川諸家系譜』第1巻（続群書所類聚刊行会）
「幕府祚胤伝」『徳川諸家系譜』第2巻（続群書所類聚刊行会）
* 『大江戸の姫さま』p129-134「定信と姫さま（種姫）」（関口すみ子、角川書店、2005年）

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