稲村隆正

稲村 隆正

稲村 隆正（いなむら たかまさ）は、1923年2月22日に東京に生を受け、1989年8月8日にその生涯を閉じた日本の写真家です。

経歴と人物

大正12年、東京の地で誕生した稲村は、早稲田大学の政治経済学部にて学びました。大学在学中、慶應義塾大学に籍を置いていた写真家の三木淳氏を通じて、名取洋之助氏がローライカメラを用いて展開する写真術の質の高さについて強い感銘を受けました。この出会いが契機となり、当時主流であったコンタックスやライカといったカメラよりも、ローライという機材に特別な憧れを抱くようになります。

第二次世界大戦が終結を迎えた後の1947年、稲村は名取洋之助氏が主導的な役割を担っていたサンニュースフォトスに入社し、写真家としての道を本格的に歩み始めました。キャリアの初期においては、経済的な制約から私物のカメラを所有することが難しく、主に会社が保有するスピードグラフィック、コンタックス、そしてローライといった様々な種類のカメラを使用して業務にあたっていました。しかし、師である名取洋之助氏から、プロの写真家として自らのカメラを持つことの重要性について熱心に教示を受けます。この助言に深く影響された稲村は、かねてからの憧れであったローライフレックススタンダードを自らの機材として購入することを決意します。このローライフレックススタンダードは、その後の彼の写真活動における主要なツールとなりました。

プロフェッショナルとしての活動を通じて、彼は日本の主要な写真家団体にも所属しました。日本写真家協会（JPS）や日本広告写真家協会（APA）といった組織の会員として、写真界の発展にも寄与しました。報道写真や広告写真といった分野を中心に、精力的に作品を発表し、その技量と表現力は高く評価されました。

稲村隆正は、大学時代に芽生えた写真への情熱を、名取洋之助という偉大な師との出会いと、ローライという愛機とともに育み、日本の写真史に足跡を残した人物です。彼の写真活動は、当時の社会情勢や写真技術の変遷と共にあり、その作品は今なお多くの人々に影響を与えています。

参考文献

* 『現代カメラ新書No.16、私のカメラ初体験』朝日ソノラマ

もう一度検索