稲葉稔 (政治家)

稲葉稔：滋賀県政を牽引した革新的な知事

稲葉稔（いなば みのる）は、1929年9月14日に滋賀県愛知郡（現在の東近江市）で生まれ、2006年10月15日に77歳で亡くなった日本の政治家です。彼は、3期12年にわたり滋賀県知事を務め、その革新的な政策とリーダーシップで県政を大きく前進させました。

生い立ちと県庁職員としてのキャリア

稲葉は、八日市中学校（現在の滋賀県立八日市高等学校）を卒業後、立命館専門学校（現在の立命館大学）を中退し、1946年に滋賀県庁に入庁しました。県庁では、水政課長、企画部長、総務部長といった要職を歴任し、行政官としての経験を積みました。1982年には、当時の武村正義知事のもとで副知事に就任し、知事の補佐役として県政運営に携わりました。

知事としての功績

1986年、武村知事が衆議院議員選挙に立候補したことを受け、稲葉は滋賀県知事選挙に立候補し、当選を果たしました。選挙では、自民党、社会党、公明党、民社党、自ク、社民連という幅広い政党の推薦を受け、その後の2回の選挙でも同様の推薦を得ました。これは、稲葉の人柄と政策が、幅広い支持を得ていたことを示しています。

知事在任中、稲葉は特に文化行政に力を注ぎました。滋賀県立大学、滋賀県立琵琶湖博物館、びわ湖ホールという、県を代表する文化施設の建設を実現しました。さらに、立命館大学のびわこ・くさつキャンパスの誘致にも成功し、滋賀県の文化と教育の発展に大きく貢献しました。

また、交通政策にも熱心で、びわこ空港や新幹線新駅（南びわ湖駅）の誘致を推進しました。これらのプロジェクトは、滋賀県の交通網を整備し、経済発展を促進する上で重要な役割を果たしました。

在任中には、25年間続いた琵琶湖総合開発が終了しました。この事業は、琵琶湖の水質保全や治水対策を目的としており、稲葉は環境問題にも積極的に取り組んだ知事として知られています。

1987年には、JR西日本が県内の東海道本線の愛称をJR京都線としようとしたことに抗議し、「琵琶湖線」という名称が作られました。これは、地域への愛着とプライドを示す出来事として、今でも語り継がれています。

さらに、県の機構改革にも取り組み、縦割りを排除した琵琶湖環境部を設置しました。これは、国の方針に反するものでしたが、稲葉の強いリーダーシップによって実現しました。また、1987年には女性職員の制服を廃止するなど、時代を先取りした革新的な政策も実行しました。

一方で、1991年には信楽高原鐵道列車衝突事故が発生し、稲葉は知事として最もつらい経験だったと述べています。

1997年には腹膜炎で手術を受け、翌年の知事選には立候補せず政界から引退しました。1999年11月3日には、長年の功績が認められ、勲二等旭日重光章を受章しました。

後継者選出を巡る混乱

稲葉の引退後、後継の知事を選ぶ選挙では、自民党内で意見が分裂しました。県総務部長だった國松善次を推薦する動きがある一方で、大阪府副知事だった吉沢健や県出納長だった高井八良も出馬し、選挙は混戦となりました。この背景には、新党さきがけ結成直前まで衆議院議員で、自民党滋賀県連の会長を務めていた武村正義の影響がありました。國松は、武村知事の時代に大阪府からヘッドハントされ、武村に近いと見なされたため、党内で反発を受けたのです。しかし、他党の推薦も望めること、現職だった稲葉も県の官僚を望んでいたことから、最終的には國松が後継者に選ばれ、知事選に当選しました。

晩年

引退後は、心不全のため2006年10月15日に77歳で亡くなりました。稲葉稔は、滋賀県の発展に大きく貢献した知事として、その名は長く記憶されることでしょう。

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