穂積和夫

穂積和夫：日本の生活文化を彩るイラストレーター

1930年東京に生まれた穂積和夫氏は、日本のイラストレーション界を代表する巨匠の一人です。東北大学工学部建築学科、セツ・モードセミナー卒業という経歴を持ち、建築設計事務所での勤務経験を経て、イラストレーターとしての道を歩み始めました。

その活動は多岐に渡ります。当初はファッション、自動車といった分野を中心に、出版物や広告で活躍しました。特に、日本のメンズファッション界においては、第一人者として数々のメンズファッション誌に寄稿。彼の描いたアイビーボーイのイラストは、当時の若者たちのファッションスタイルを象徴するアイコンとなり、大きな影響を与えました。

その才能はファッションにとどまりません。各自動車メーカーのポスター、映画ポスター、CDジャケットなど、幅広い分野でイラストを提供し、その洗練された画風で多くの作品に彩りを添えました。

1981年からは、日本の歴史建造物や町並み、歴史風俗といった新たなテーマに挑みます。それまでの作品とは異なる、日本の生活文化を深く見つめた視点で描かれた作品群は、高い評価を受けました。伝統的な日本の美意識と現代的な感性を融合させた、独特の世界観は多くの人の心を捉えました。

教育者としての顔も持ち、セツ・モードセミナー、京都デザイン専門学校、昭和女子大学などで講師を務め、後進の育成にも尽力しました。自身の豊富な経験と知識を惜しみなく伝え、多くの若い才能を育てました。

穂積氏の作品は、単なるイラストレーションにとどまりません。日本の生活文化や歴史に対する深い理解と愛情が、それぞれの作品に息づいています。緻密な描写と洗練されたデザインセンスは、見る者の心を魅了し、時代を超えて愛される作品を生み出しました。

主な作品としては、『着るか着られるか』、『自動車のイラストレーション』、『絵本アイビーギャル図鑑』、『絵本アイビーボーイ図鑑』、『大人の男こそ、オシャレが似合う』、『日本の建築と町並みを描く』、『穂積和夫の世界 車とアート』、『絵で見る明治の東京』などがあります。また、『スタイル画の世界』、『世界の軍服』、『日本建築のかたち 生活と建築造形の歴史』といった共編著や、チャールズ・ヒックスの『男の着こなし 何を選び、どう着るかー実践的服装学』の翻訳なども手掛けています。さらに、2017年には、デーヴィッド・マークス著『AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語 日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?』のカバーイラストを担当しました。

2024年11月26日、多臓器不全のため94歳で逝去されました。日本のイラストレーション界に多大な貢献を果たした穂積和夫氏の功績は、これからも長く語り継がれていくことでしょう。彼の作品は、日本の生活文化と歴史を未来へと繋ぐ貴重な遺産として、後世に受け継がれていきます。

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