セツ・モードセミナー

セツ・モードセミナー：自由な創造性を育んだ美術学校

東京都新宿区に存在したセツ・モードセミナーは、1954年、画家・長沢節によって「長沢節スタイル画教室」として創設された美術学校です。1957年に「セツ・モードセミナー」と改称し、1965年には新宿区舟町に新校舎を建設、2017年4月23日までその地で多くの才能を育みました。

実践重視の美術教育

セツ・モードセミナーの教育は、理論よりも実践を重視するものでした。授業の大半は実技に費やされ、デッサン、タブロー制作を通して、生徒たちは独自の表現方法を磨いていきました。デッサンでは、群像、コスチューム、ヌードなど多様なモチーフを対象に、美しい色面と構図を追求。リアリズムは求められず、生徒一人ひとりの自主性を尊重する教育が実践されていました。特徴的なのは、スタイル画教室から発展した歴史を受け継ぎ、人物デッサンのモデルには手足の細い、痩せ型の男女が多く選ばれていた点です。俳優の谷原章介氏もモデルを務めたという記録も残っています。また、服飾学校や美大の卒業生など、年齢層も幅広い生徒たちが集っていました。

タブローの授業では、1～2週に一度、水彩絵具を用いて四六半切の紙に、人物、静物、風景などを2時間という限られた時間の中で描き上げました。短時間での色彩選択や構図の決定、そして合評会での作品批評を通して、生徒たちは絵画表現力と批評眼を同時に養っていきました。合評会では、優れた作品には「A」の称号が与えられ、他の生徒の作品を観察することも重要な学習要素とされていました。

自由な校風と独自の教育理念

長沢節の自由な校風は、セツ・モードセミナーの大きな特徴でした。入学試験は設けず、当初は抽選、後に先着順で生徒を受け入れました。学校法人化をせず、会社法人組織の画塾として運営されたことからも、その自由な姿勢がうかがえます。授業料は他の専門学校に比べて安価に設定されており、経済的な事情で美術を学ぶことを諦めざるを得ない学生にも門戸を開放していました。

セツ・モードセミナーは、国から認可を受けた専門学校ではなく、独自の教育理念を貫く画塾でした。その自由な校風と、長沢節の生き様は、多くの若者を引きつけ、「日本版バウハウス」と称されるほどでした。

インターネットが普及する以前は、『年鑑イラストレーション』に掲載されるイラストレーターの多くが美大、桑沢デザイン研究所、そしてセツ・モードセミナーの卒業生でした。1985年の日本グラフィック展では、セツ出身者が芸大・美大出身者を抑えて上位入賞を独占したこともありました。

著名な卒業生とその後

セツ・モードセミナーは、絵画、服飾、漫画、芸能など、多様な分野で活躍する多くのクリエーターを輩出しました。就職斡旋は行われませんでしたが、卒業生たちは各自の作品を携え、それぞれの道を切り開いて行きました。卒業生の作品展は毎年銀座で開催され、その後は校舎に移されました。

校舎とアクセス

パリのアパートを参考に設計されたという校舎は、坂道を登った先に位置し、白い外観が印象的でした。吹き抜けのロビーには生徒の作品が展示され、ファッションショーなども開催されていました。都営地下鉄曙橋駅から徒歩3分というアクセスも魅力でした。

セツ・モードセミナーは、その独自の教育理念と自由な校風、そして多くの著名な卒業生によって、日本の美術界に大きな足跡を残しました。閉校から数年経った現在も、その精神は卒業生たちによって受け継がれ、美術界に影響を与え続けていると言えるでしょう。

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