穆王 (周)

周の穆王：伝説と治世

穆王（ぼくおう）は、古代中国、周王朝の第五代の王として知られています。彼の治世は、数々の伝説と政治的な功績によって彩られています。父である昭王が南方の楚への遠征中に消息を絶ったため、一時的に王位を代行し、その後、昭王の死が確認されたことで正式に即位しました。彼の時代は、周王朝の歴史において重要な転換期であったと言えるでしょう。

伝説の駿馬「穆王八駿」

穆王の最も有名な伝説の一つに、彼が所有していたとされる八頭の駿馬、「穆王八駿（ぼくおうはっしゅん）」の物語があります。これらの馬は、それぞれが特殊な能力を持っており、穆王はこれらの馬を駆って中国全土を巡り、異民族との戦いに臨んだとされています。

絶地（ぜっち）: 飛ぶように速く走ることができたという馬。
翻羽（ほんう）: 鳥よりも速く走ることができたという馬。
奔霄（ほんしょう）: 一夜にして万里を駆けることができたという馬。
越影（えつえい）: 太陽を追いかけるように走ることができたという馬。
逾輝（ゆき）: 光のように輝き、明るく照らすことができたという馬。
超光（ちょうこう）: 十の影を持つとされた不思議な馬。
騰霧（とうむ）: 雲に乗って走ることができるとされた馬。
挟翼（きょうよく）: 翼を持ち、空を飛ぶことができたという伝説の馬。

これらの駿馬は、単なる移動手段としてだけでなく、穆王の超人的な力を象徴するものとしても語り継がれています。

政治と法

穆王は、政治においても重要な役割を果たしました。彼は司寇（司法官の長）である呂侯に命じて『呂刑（りょけい）』と呼ばれる刑法を定めさせ、社会の安定を図ろうとしました。しかし、この刑法は、その罪状の数が三千にも及ぶという過剰さから、諸侯や民衆の反感を買う結果となりました。この出来事は、法による統治の難しさを物語るエピソードとして語り継がれています。

崑崙山と西王母

また、穆王は西方の彼方、神々が住むとされる崑崙山にまで足を運び、そこで西王母（せいおうぼ）に会ったという伝説もあります。西王母は、後に穆王の朝廷に入朝したとも言われています。この物語は、中国最古の旅行記の一つである『穆天子伝（ぼくてんしでん）』に記されており、神話や伝説の要素を多く含んでいます。

『穆天子伝』は、単なる旅行記としてだけでなく、当時の人々の世界観や文化、宗教観を理解する上で非常に貴重な資料となっています。この書物を通して、穆王の時代が、神話と歴史が交錯する興味深い時代であったことがわかります。

後世への影響

穆王の物語は、彼の死後も様々な形で語り継がれ、多くの人々に影響を与えました。彼の伝説は、文学作品や演劇の題材となり、今日に至るまで人々の関心を集めています。特に、駿馬を駆って各地を駆け巡る英雄としての彼の姿は、多くの人々の心を魅了し続けています。

現代における穆王

現代においても、穆王はテレビドラマなどのメディアで取り上げられることがあります。例えば、2017年の中国ドラマ『私が大王!? 愛しいあなたは我が家臣』では、穆王が主人公として描かれており、彼の伝説が現代のエンターテイメントを通じて新たな世代に伝えられています。このように、穆王の物語は、時代を超えて人々の心に響き続けています。


穆王は、伝説と現実が複雑に絡み合った人物であり、彼の治世は、古代中国の文化や歴史を理解する上で欠かせない要素の一つです。

もう一度検索