穆天子伝

『穆天子伝』とは

『穆天子伝』（ぼくてんしでん）は、古代中国、周王朝の穆王（ぼくおう）の事績を記した歴史書です。全6巻からなり、『周王遊行』とも呼ばれます。穆王の55年に及ぶ在位期間中、特に外征に焦点を当てており、その詳細な記録は、古代史の研究において貴重な資料とされています。

記述内容

『穆天子伝』の中心となるのは、穆王の西征の記録です。穆王13年から17年にかけての崑崙山への遠征では、9万里も旅をして西王母と会見したと記されています。また、帰還後には、盛姫という美女への深い愛情についての記述で物語は幕を閉じます。

『左伝』のような史実を淡々と記録する歴史書とは異なり、『穆天子伝』は穆王を中心に、物語風の随筆形式で描かれているのが特徴です。これにより、当時の人々の生活や風俗、思想を垣間見ることができます。

発見の経緯

この書が世に出たのは、西晋時代に遡ります。魏の襄王の墓が盗掘された際、竹簡として発見されました。この発見された竹簡は『汲冢書』（きゅうちょうしょ）として整理され、全75篇のなかに『穆天子伝』は5巻にまとめられました。その後、さらに1巻が追加され、現在の全6巻となったとされています。

後世の評価

現代に伝わる『穆天子伝』は、作者や成立年代が不明な点が多く、記述内容にも謎が多いため、一部では奇書とも呼ばれています。しかし、その存在は『隋書』経籍志にも記録されており、晋代に発見されたことが説明されています。

明代の胡応麟は、『三墳補逸』の中で、『穆天子伝』を歴史書というよりも「小説の元祖」と評しました。これは、その記述が物語的であり、フィクションの要素も含まれているという見方を反映しています。清代に入ると、檀萃による『穆天子伝註疏』、丁謙による『穆天子伝地理考証』、顧実による『穆天子伝西征講疏』など、注釈書や研究書が著され、様々な視点から研究が進められました。1994年には王貽樑と陳建敏によって『穆天子伝匯校集釈』が出版され、2003年には歴史家の楊寛が『穆天子伝』は、中国西部の河宗氏が周辺の少数民族の伝承を集めたものが元であり、後に魏国の史官が整理したものだという説を唱えました。この説によると、史実と伝説が混在しているため、西周時代の青銅器金文の研究において一定の価値を持つとされています。

結論

『穆天子伝』は、古代中国の歴史を伝えるだけでなく、物語としても楽しめる魅力的な書物です。史実と伝説が入り混じった記述は、多くの研究者たちの興味を引きつけ、様々な研究を生み出してきました。現代においても、その文学的な価値、歴史的な価値は高く評価され、読み継がれています。

参考文献

『穆天子伝』
『隋書』
『三墳補逸』
『穆天子伝註疏』
『穆天子伝地理考証』
『穆天子伝西征講疏』
『穆天子伝匯校集釈』

関連項目

穆王 (周))
* 汲冢書

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