積極的不介入

積極的不介入とは

積極的不介入とは、1970年代から香港返還までの香港政庁が採用した経済政策の基本方針です。この政策は、それまでの自由放任主義を修正し、社会や経済が深刻な状況に陥った場合には政府が介入するという考え方に基づいています。

政策の経緯

積極的不介入の概念は、1979年9月に当時の財政長官フィリップ・ハッドンケイヴ氏が講演で示唆し、翌1980年12月には香港工業総会での演説で明確に表明されました。しかし、実際にはそれ以前から、クロフォード・マレー・マクレホース総督（1971年就任）によって、香港政庁による社会・経済への政策的介入が行われていました。

その背景には、1967年に香港で発生した暴動の再発を防ぐという目的がありました。この暴動は、中国本土の文化大革命や中国共産党内の権力闘争が影響したものでしたが、同時に、当時の香港には、官吏の汚職や市民の劣悪な住環境、経済状況など、中国本土の影響を受けやすい状況がありました。

そこで、マクレホース総督は、新界地区での大規模な住宅団地の建設、地下鉄などのインフラ整備、9年間の義務教育開始といった公共事業や政策を実施し、香港の経済発展と社会の安定を図りました。これらの政策は、1980年前後には香港の急速な経済発展と民生向上をもたらし、香港市民の香港政庁に対する見方も大きく変化させました。

このような政策については、「不介入」の範囲を超え、「選択的な介入」ではないかという議論もあります。しかし、香港は低い税率を維持し、現在に至るまで世界で最も自由な経済環境を保っているという評価が一般的です。

返還後の変化

香港返還後も、香港の官僚はしばらくの間、「積極的不介入」の方針が維持されていると述べていました。しかし、董建華行政長官は、より積極的な経済政策を試みました。例えば、IT企業を誘致するためのサイバーポート建設や、漢方薬などの研究開発拠点である香港科学園の建設など、新規産業の育成を図ろうとしました。

これらの政策は、即効性がなく、また不景気と重なったため、香港政府の財政が悪化し、董建華行政長官の方針転換は本格化することなく、2005年に辞任に至りました。

その後、「積極的不介入」を公式に否定したのは、曽蔭権行政長官です。2006年9月11日、香港政府は中国本土の経済発展や政策を香港経済のためにどう利用すべきかを検討するため、「第十一次五カ年計画と香港の発展」と題した経済サミットを開催しました。

このサミットの記者会見で、「こうした会議を開催し、政府が香港経済の方向性を模索することは、『積極的不介入』と矛盾するのではないか」という質問が出ました。これに対し、曽蔭権行政長官は「『積極的不介入』を我々が口にしたことはない」と否定し、「小さな政府、大きな市場」が現在の方針であると述べました。

この発言は、香港のマスメディアを騒がせ、経済自由度指数で世界最高と評価されてきた香港を理想としていた経済学者ミルトン・フリードマンも批判しました。しかし、「小さな政府、大きな市場」が具体的に何を意味するのかについては、明確に説明されませんでした。

まとめ

積極的不介入は、香港の経済発展と社会安定に大きく貢献した政策です。しかし、返還後の香港では、より積極的な政府の関与が求められるようになり、この政策は転換期を迎えています。

関連事項

香港経済
香港の歴史
* ミルトン・フリードマン

もう一度検索